秘密保持契約書の達人

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ソフトウェア開発業務委託契約書の秘密保持義務:目次

  1. ソフトウェア開発業務委託契約とは
  2. ソフトウェア開発業務委託契約と契約書
  3. ソフトウェア開発業者には法律で定められた秘密保持義務がない
  4. 下請け・孫請けからの情報漏洩に注意

ソフトウェア開発業務委託契約とは

請負契約または委任契約

ソフトウェア開発業務委託契約とは、一般的には、プログラム、アルゴリズム、システム、データベース、アプリケーションソフト、カスタムソフトなどの、コンピュータやサーバにインストールすることで作動させる一連のコード群の開発のための契約をいいます。

 

ソフトウェア開発業務委託契約は、法律上の正式な用語ではなく、一般的に使われている用語です。このため、その内容は契約ごとによって様々です。

 

一般的な契約内容としては、民法上の請負契約または準委任契約のいずれかに該当します。

 

この違いとしては、主に受注者=開発業者(いわゆるベンダー)の責任の性質(請負契約の場合は瑕疵担保責任、準委任契約の場合は善管注意義務)があります。

 

その他の違いとしては、以下のようなものがあります。

 

請負契約と(準)委任契約の違い
請負契約と準委任契約の違い

契約書には請負契約か準委任契約かを明記する

ただし、一般的なソフトウェア開発やシステム開発の現場では、このような契約内容が明確に意識されていないことがあります。

 

このため、実際にソフトウェア開発業務委託契約を結ぶ際には、請負契約か準委任契約を十分に協議して決定し、契約書の中に請負か準委任かを明記しておくべきです。

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ソフトウェア開発業務委託契約と契約書

口約束でも成立するが下請法が適用される場合は発注者に書面交付義務あり

ソフトウェア開発業務委託契約は、原則として、契約書の作成が義務づけられていません。このため、現行法では、口約束であっても、契約は成立します。

 

ただし、例外として、下請法が適用される場合は、親事業者に該当する契約当事者は、下請事業者に該当する契約当事者に対して、下請法第3条に規定する条件を充たした書面を交付する義務があります。

 

この書面は、通常は契約書や注文書として交付されます。

 

開発モデルによって契約内容を決める

一般的なソフトウェア開発業務委託契約書では、仕様、開発業務(コーディング業務)、納入、検査、実装、場合によっては保守点検等の契約内容を記載します。

 

ただし、これはウォーターフォールモデルの場合であり、他のモデル(プロトタイプモデル、スパイラルモデル、アジャイルソフトウェア開発モデル)では、契約内容が大幅に変わってきます。このため、実態にあわせて、適宜契約書の内容を決める必要があります。

 

知的財産権の帰属と瑕疵担保責任が特に重要

なお、通常のソフトウェア開発業務委託契約では、知的財産権(主に著作権)が発生します。このため、その取り扱い、特に受注側からの譲渡または使用許諾について契約書に明記します。

 

また、バグなどの問題が発生した場合の対応(修正と損害賠償・免責など)を契約書に明記します。

 

これらの知的財産権や瑕疵担保責任について契約書に明記しない場合に、何か問題が発生したときは、法律の原則どおりのルールが適用されます。

 

ただ、法律の原則では、知的財産権については受注者にとって有利であり、瑕疵担保責任については発注者にとって有利となっており、しかもこれは実際のソフトウェア開発の実態とはかけ離れた内容となっています。

 

このような法律の原則ではなく、ソフトウェア開発の実態に適合した契約内容とするためにも、ソフトウェア開発業務委託契約書を作成することは、必須であるといえます。

ソフトウェア開発業者には法律で定められた秘密保持義務がない

現行法では、ソフトウェア開発業者を規制する事業法はありません。また、他の法律でも、特にソフトウェア開発業者に直接秘密保持義務を課しているものは、見当たりません。

 

発注者としては秘密保持契約が必須

このため、秘密保持契約書を取り交わしたり、ソフトウェア開発業務委託契約書に秘密保持義務を記載しない限り、ソフトウェア開発業者には秘密保持義務が課されません。

 

参考:企業間取引と秘密保持契約

 

この点から、発注者としては、ソフトウェア開発業者からの情報漏洩には、注意しなければなりません。

 

ただ、発注者としては、ソフトウェア開発業者に直接秘密保持義務を課したとしても、それだけでは不十分です。

 

というよりも、どちらかといえば、ソフトウェア開発業者そのものよりも、その下請け・孫請け(場合によっては三次請け、四次請け以下)の事業者からの情報漏洩に注意しなければなりません。

下請け・孫請けからの情報漏洩に注意

発注者としては下請け・再委託はなるべく認めない

ソフトウェア開発業者が下請け・孫請け等を使う場合、これらの下請け・孫請けには、ソフトウェア開発業者による情報管理についての統制が及びにくくなります。結果として、秘密情報が漏洩するリスクが高まります。

 

このため、発注者としては、そもそも開発について、再委託(再委任)や下請けを許可するべきではありません。

 

ただ、ソフトウェア開発の世界では、再委託(再委任)や下請けを使わないと、事実上開発ができないという実態があります。

 

このため、発注者としては、再委託(再委任)や下請けを認めざるを得ないこともあります。

 

この場合であっても、発注者としては、無駄に秘密情報が拡散することを防ぐためにも、せいぜい下請け、最大限譲歩しても孫請けまでとし三次請け、四次請けまで認めるべきではありません。

 

また、情報漏洩の責任については、たとえ下請け・孫請け等の事業者が情報を漏洩させてしまった場合であっても、ソフトウェア開発業者が下請け・孫請け等による情報漏洩の責任を(可能でれば連帯して)負うような契約内容とするべきです。

 

開発業者もなるべく下請け・再委託を使わないか情報管理を徹底する

ソフトウェア開発業者としても、可能な限り、情報管理の統制が効かない下請け・孫請け・三次請け・四次請けの事業者などは使うべきではありません。

 

やむを得ず使う場合は、これらの下請け等の事業者との下請け(再委任)契約や秘密保持契約の中で、厳しい秘密保持義務や情報管理の規定を規定しておくべきです。

 

また、情報が漏洩してしまった場合であっても被害を最小限に食い止めることができるように、下請け(再委任)する事業者には、なるべく行程を分割して発注するべきです。

 

参考:業務委託先・外注先・下請けの監督義務

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