秘密保持契約書の達人

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建設工事請負契約書の秘密保持義務:目次

  1. 建設工事請負契約とは
  2. 建設工事請負契約と契約書
  3. 建設業者には秘密保持義務はない
  4. 製造業者の工場の建設の場合に注意

建設工事請負契約とは

規模の大小にかかわらず工事=建設工事

建設工事とは、法的には、建設業法別表第1に規定されている28種類の工事のことをいいます。

 

一般的には、いわゆる建築工事や土木工事のように大規模なものがイメージされがちですが、設備工事、内装工事、電気工事のように比較的小規模なものまで、あらゆる工事が建設工事に該当します。

 

また、請負契約とは、「当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約する」契約です(民法第632条)。

 

このため、建設工事請負契約とは、当事者の一方が建設工事を完成することを約し、相手方が完成した建設工事の結果に対してその報酬を支払うことを約する契約であるといえます。

 

まれに「請負」でない建設工事もありうる

なお、一般的な建設業者がおこなう建設工事の契約は、請負契約であると考えて差し支えありません。

 

ただし、一部の特殊な建設工事の場合は、請負契約ではなく、他の契約形態(労働契約・雇用契約、準委任契約)である可能性もないわけではありません。

 

特に、元請業者と一人親方との契約、いわゆる「手間請け仕事」の契約の場合は、準委任契約や場合によっては労働契約・雇用契約とみなされることがあります。

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建設工事請負契約と契約書

建設工事請負契約は契約書作成が義務づけられている

建設工事請負契約を結ぶ場合、建設工事の請負契約の当事者(建設業の許可を受けた建設業者に限定されません)は、契約書を作成して、相互に交付しなければならないとされています(建設業法第19条)。

 

つまり、建設工事請負契約書の作成は、明確な法的義務であるといえます。

 

中小企業の建設業者の中には、契約書を取り交わさないで工事をする場合がありますが、これは明らかに建設業法違反です。

 

発注者としては、どんなに小規模な工事であれ、このような契約書を用意できないような建設業法に工事を注文するべきではありません。

 

特定商取引法=クーリングオフの規制対象となることもある

また、平成21年12月に施行された改正特定商取引法により、訪問販売や電話勧誘販売によっておこなわれる建設業者と消費者との建設工事請負契約(例:リフォーム工事・太陽光パネル設置工事など)については、特定商取引法の適用対象となりました。

 

このため、訪問販売や電話勧誘販売により消費者と契約を結ぶ場合、建設業者は、建設業法第19条と併せて、特定商取引法の規制(クーリングオフなど)に適合した書面を作成しなければなりません。

 

契約自体は口頭でも成立する

ただし、建設業法や特定商取引法の書面の作成・交付は、契約が成立する要件ではありません(いわゆる「要式契約」ではありません)。つまり、契約そのものは、口約束でも成立します。

 

このため、建設業法や特定商取引法の書面作成・交付義務を果たさずに契約書を作成していないからといって、建設工事請負契約が成立しないわけではありません。

建設業者には秘密保持義務はない

建設業者を規制する事業法としては、建設業法があります。この建設業法では、現在のところ、建設業者に対する秘密保持義務は課されていません。

 

また、他の法律でも、特に建設業者に直接秘密保持義務を課しているものは、見当たりません。

 

このため、秘密保持契約書を取り交わしたり、建設工事請負契約書に秘密保持義務を記載しない限り、建設業者には秘密保持義務が課されません。

 

参考:企業間取引と秘密保持契約

 

この点から、発注者としては、建設業者からの情報漏洩には、注意しなければなりません。

 

ただ、発注者としては、建設業者に直接秘密保持義務を課すことも重要ではありますが、それ以上に注意しなければならない点があります。

 

それは、下請け・孫請け(場合によっては三次請け、四次請け以下)の建設業者からの情報漏洩です。

製造業者の工場の建設の場合に注意

発注者としては下請け・再委託はなるべく認めない

建設業者が下請け・孫請け等を使う場合、これらの下請け・孫請けには、建設業者による情報管理についての統制が及びにくくなります。このため、本来であれば、発注者としては、建設工事の下請けを許可するべきではありません。

 

特に、製造業者の工場の建設の場合、製造ラインや工作機械の配置などは、競合他社に漏洩してしまうと、重大な損害や逸失利益になりかねません。このような製造ラインや工作機械の配置などの情報は、重要な営業秘密として、保護されるべきものです。

 

また、オフィスビルにおける内装工事なども、防犯上の重要な情報となります。

 

やむを得ない場合も個人事業者(一人親方)は使わせない

ただ、建設業界では、下請けの業者を使わないと事実上工事ができない場合もあります。このため、発注者としては、部分的な下請けを認めざるを得ません(なお、一括下請負は建設業法第22条で原則として禁止されています)。

 

この場合であっても、発注者としては、秘密情報の拡散を防ぐためにも、せいぜい下請け、最大限譲歩しても孫請けまでとし三次請け、四次請けまで認めるべきではありません。

 

この点については、場合によっては、個人事業者である下請け業者(いわゆる「一人親方」)への下請けを禁止することも考えられます。これは、法人である下請け業者に比べて、一人親方の場合は、情報管理が甘くなる可能性があるからです。

 

また、情報漏洩の責任については、たとえ下請け・孫請け等の建設業者や建設業を営む業者(許可を受けていない事業者)が情報を漏洩させてしまった場合であっても、受注した建設業者が下請け・孫請け等の事業者と連帯して責任を負うような契約内容とするべきです。

 

建設業者もなるべく下請け・再委託を使わないか情報管理を徹底する

建設業者としても、可能な限り、情報管理の統制が効かない下請け・孫請け・三次請け・四次請けの建設業者などは使うべきではありません。

 

やむを得ず使う場合は、これらの下請け等の建設業者との下請け(再委任)契約や秘密保持契約の中で、厳しい秘密保持義務や情報管理の規定を規定しておくべきです。

 

参考:業務委託先・外注先・下請けの監督義務

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