秘密保持契約書の達人

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労働者派遣契約書の秘密保持義務:目次

  1. 労働者派遣契約とは
  2. 偽装請負に注意
  3. 労働者派遣法による秘密保持義務はある
  4. 派遣労働者からの情報漏洩に注意

労働者派遣契約とは

労働者派遣法では、労働者派遣とは、次のように定義づけられています(労働者派遣法第2条第1号)。

労働者派遣法第2条(用語の定義)

この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

(1)労働者派遣 自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものとする。

つまり、労働者派遣契約とは、当事者の一方が相手方に対してこの労働者派遣をすることを約する契約(労働者派遣法第26条第1項)であるといえます。

 

通常の雇用契約・労働契約における企業と労働者の関係は雇用者と使用者が同一ですが、労働者派遣契約における企業と労働者の関係は雇用者である企業(労働者派遣事業者(以下、「派遣業者」といいます))と使用者である企業(派遣先)が別々になります。

 

このため、労働者派遣の性質を「雇用と使用の分離」というように表現します。

 

労働者派遣契約書の作成は法的義務

なお、労働者派遣法では、労働者派遣契約を結ぶ際に、契約当事者が契約内容について書面を作成しなければならない内容の義務が規定されています。これは、実質的に契約書を作成する義務であるといえます。

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偽装請負に注意

なお、契約書の内容が請負契約や準委任契約であっても、実態が労働者派遣契約である場合は、いわゆる「偽装請負」であるといえます。請負契約や準委任契約が「偽装請負」であるとみなされた場合、労働者派遣法の規制を受けます。

 

そもそも、偽装請負は実態が労働者派遣契約であるわけですから、委託者・受託者の双方は、(派遣労働者を保護するために)労働者派遣法を遵守する必要がります。

 

偽装請負は多くの労働者派遣法に問われる

当然ながら、労働者派遣法を遵守していない場合は、請負契約や準委任契約であると主張したとしても、委託者・受託者ともに多くの労働者派遣法違反に問われる可能性があります。また、委託者の側は、職業安定法第44条違反となる可能性があります。

 

この点から、偽装請負ではなく、適正な請負契約・準委任契約とするためには、厚生労働省が定める基準に適合した契約内容とする必要があります。

 

「告示第37号」を遵守する

この基準が、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分基準の具体化、明確化についての考え方(昭和61年4月17日労働省告示第37号)」、いわゆる「告示第37号」です。

 

参考:労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準

 

実務上、適正な請負契約・準委任契約とする場合、この基準に適合した契約書を作成したうえ、実態としてもこの内容に適合した契約としなければなりません。

労働者派遣法による秘密保持義務はある

労働者派遣契約における秘密保持義務としては、主に、派遣労働者からの情報漏洩に注意します。

 

派遣業者と派遣労働者は、次のとおり、秘密保持義務が課されています(労働者派遣契約第24条の4)。

労働者派遣法第24条の4(秘密を守る義務)

派遣元事業主及びその代理人、使用人その他の従業者は、正当な理由がある場合でなければ、その業務上取り扱ったことについて知り得た秘密を他に漏らしてはならない。派遣元事業主及びその代理人、使用人その他の従業者でなくなった後においても、同様とする。

ただ、労働者派遣法の秘密保持義務は、あくまで派遣業者や派遣労働者を規制する公法上の義務とされています。このため、派遣労働者と派遣先との民事上の直接的な(私法上の)秘密保持義務を規定しているわけではありません。

 

もっとも、この規定および民法上の信義誠実の原則(いわゆる「信義則」。民法第1条第2項参照)により、派遣会社は、派遣先に対して、秘密保持義務を負うものと思われます。

 

このため、受領者が派遣会社を利用している場合であっても、労働者派遣法が最低限の情報漏洩の予防になるといえます。しかしながら、念のため、労働者派遣契約において、秘密保持義務を明記しておくべきです。

 

参考:派遣労働者の秘密保持義務

派遣労働者からの情報漏洩に注意

派遣先は派遣労働者に対して損害賠償請求ができない

ただ、派遣労働者については、派遣会社に対しては労働契約・雇用契約に付随する義務として秘密保持義務を負いますが、派遣先に対してはなんらの直接的な秘密保持義務を負いません。

 

このため、派遣労働者が故意または過失によって派遣先に何からの損害を与えたとしても、派遣先に対して直接その損害を賠償するのは、あくまで派遣会社であって派遣労働者ではありません。

 

この点から、派遣先としては、労働者派遣契約を根拠に損害賠償の責任を追求できる対象は、派遣会社であって派遣労働者ではありません。

 

派遣労働者にはなるべく機密情報を扱わせない

派遣先として派遣労働者を使う場合、派遣労働者には、(特に退職後は)情報管理についての管理監督が及びにくくなります。このため、派遣先としては、派遣労働者に対して、機密性の高い情報や個人情報を取り扱う業務をさせるべきではありません。

 

やむを得ず派遣労働者を使う場合は、その情報漏洩の防止と情報漏洩があった場合の直接の損害賠償請求の根拠とするために、派遣労働者と直接秘密保持契約を結ぶことも検討してください。

 

ただし、この場合であっても、労働基準法・労働契約法に抵触しないようにしなければなりません。あまりに拘束性が高い秘密保持契約の内容としてしまうと、派遣先と派遣労働者との直接の雇用契約・労働契約とみなされる可能性もあります。

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