秘密保持契約書の達人

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許諾情報:目次

  1. 許諾された情報は当然に秘密情報の例外
  2. 許諾の手続きは厳格に
  3. 大学と企業の共同研究開発で活用する
  4. 大学による公表に注意

許諾された情報は当然に秘密情報の例外

秘密保持契約は、情報の開示者から受領者に対して、秘密保持義務を課す契約です。このため、開示者から秘密情報の例外として開示や公表を許諾された情報は、当然に秘密情報の例外となります。

 

その意味では、わざわざ秘密情報の例外として規定する意味はあまりなさそうですが、念のためのものとして規定されているようです。

 

重要なのは許諾情報を指定する「手続き」

この場合に問題となるのが、許諾された情報の範囲と許諾の手続きです。

 

許諾情報の特定とその手続きを秘密保持契約書で明確にしなければ、許諾情報を例外として規定しても、事実上無意味となる可能性があります。

 

まず、開示者が秘密情報の例外として許諾する情報を詳細に特定する必要があります。一般的に、秘密情報を例外として扱うことを許諾する場合、すべての秘密情報を例外として扱うことはせずに、部分的に例外として扱うことを許諾します。

 

このため、「どの情報が例外に該当するのか」ということを明らかにしなければ、開示者にとっては例外の拡大解釈のリスクがありますし、受領者にとっては、例外の縮小解釈のリスクがあります。

 

つまり、許諾情報の線引・切り分けが重要となるわけです。

 

「クレーム類似形式・詳細な記載の方法」を活用する

通常、開示や公表を許諾される秘密情報は、すでに具体的な情報となっています。

 

このため、「クレーム類似形式・詳細な記載で秘密情報を特定する」で解説するような個別具体的な記載により、許諾情報を明らかにすることができます。

 

これらの記載方法を利用して、どの情報を許諾情報をするのかを特定します。

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許諾の手続きは厳格に

次に、秘密情報を例外として許諾する際の手続きをなるべく厳格に、しかも後日の証拠となるように秘密保持契約書に規定する必要があります。

 

書面での許諾は必須

具体的には、実際に開示者が許諾する際には、書面による許諾が必要であるように、秘密保持契約に規定します。

 

これは、逆にいえば、口頭での許諾を排除し、口頭での許諾があったとしても、秘密情報の例外とならないようにすることを意味します。

 

書面は差し入れるのではなく相互交付で

なお、開示者としては、いわゆる「相互交付」の形式にして、双方が証拠として手元に残しておくようにします。つまり、合意書や覚書などを2部作成して、署名押印のうえ、相互に交付します。

 

というのも、いわゆる「差し入れ」の形式にして、開示者から受領者に対し一方的に交付した場合、開示者の手元には開示・公表を許諾した情報の証拠が残らないからです。

 

以上のように書面での許諾とすることで、開示者としては、口頭での許諾情報の指定はできなくなります。これより、例えば、従業員がうっかりと口頭で許諾してしまった情報が秘密情報の例外に該当しないようにすることができます。

 

他方、受領者としても、確かに開示者が秘密情報の例外の許諾をしたという証拠が残ります。

大学と企業の共同研究開発で活用する

このように、一定の手続きを経て開示者が許諾することにより、秘密情報を部分的に例外とすることはできます。しかし、実際には、この条項が利用されることは滅多にありません。

 

例外として、共同研究開発契約書における研究成果の発表などの場合は別です。特に大学と企業との共同研究開発契約では、よく問題となります。

 

情報を秘匿したがる企業

というのも、多くの共同研究開発契約の場合、研究成果を知的財産権として活用するために、特許権での保護を図ります。また、場合によっては、営業秘密として保護することもありえます。

 

特許権として保護する場合、特許の出願までは、いわゆる「発明の新規性」を喪失しないために、特許出願の時点までは研究成果を公開してはいけません。これは、研究成果が考案や意匠である場合も同様です。

 

参考:技術情報漏洩のリスク特許の出願(新規性喪失の例外の利用)

 

また、営業秘密として保護する場合は、営業秘密の要件である「非公知性」を充たすために、半永久的に研究成果を公開してはいけません。

 

参考:営業秘密の要件3(非公知性)

 

以上のように、研究成果を知的財産権として保護するためには、安易に研究成果を秘密情報の例外として許諾するべきではありません。

 

ただ、これはあくまで企業側の立場に立った考え方であり、大学側は必ずしもそうは考えていません。

大学による公表に注意

大学では「情報は公表」が当たり前

大学側の事情としては、共同研究を担当した研究者が、学会等で研究成果を発表したがる傾向があります。もちろん、大学には研究成果をなるべくオープンにして社会に還元する使命があるため、研究成果を発表したがるのは当然のことではあります。

 

このため、大学と企業との共同研究開発契約において、研究成果を全面的に秘匿するような契約内容となることは、まずありません。

 

また、仮にそのような契約内容となったとしても、実際には、この秘密保持義務が守られずに、学会での発表を通じて秘密情報が公開されてしまうことがあります。

 

企業としては学会等での発表は許諾を必須とする

多くの国立大学や一部の私立大学では、共同研究開発契約書のひな形を公表しています。その多くは、このような学会等での発表について規定しています。

 

これらのひな形の中には、企業側の許諾を得ることなく、(例えば事前の通知だけで)研究成果を発表できるかのような内容が規定されているものもあります。

 

このような形で成果が公表されてしまった場合、特許の新規性は喪失され、営業秘密の要件である非公知性にも該当しなくなり、結局、研究成果が知的財産権として保護されなくなることになります。

 

このため、企業としては、少なくとも事前に許諾を得るような契約内容とするべきです。

 

この点について、「許諾」、「許可」、「承諾」などではなく、「確認」というあいまいに表現しているひな形もありますが、単なる確認だけでは、大学側の公表を止めることができません。

 

このため、「確認」ではなく、「許諾」、「許可」、「承諾」などの表現に変更してもらうように交渉するべきです。

 

無断の秘密情報の公表は保護される

なお、共同研究の成果が発明に該当する場合は、無断で成果を公表されたとしても、いわゆる「新規性喪失の例外」の適用により、なお特許権として保護を受けることができる可能性があります。これは、研究成果が考案や意匠である場合も同様です。

 

この際にも、共同研究開発契約書に秘密保持義務の規定があったかどうか、つまり特許を受ける権利を有する者の「意に反して」公表されたことのかどうかが問題となります。

 

その意味でも、秘密保持契約書や秘密保持義務は重要となります。

 

参考:特許の出願(新規性喪失の例外の利用)

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