秘密保持契約書の達人

このエントリーをはてなブックマークに追加

公認会計士の秘密保持義務・守秘義務:目次

  1. 公認会計士の職務と秘密情報
  2. 公認会計士の秘密保持義務・守秘義務
  3. 日本公認会計士協会による情報セキュリティの指針
  4. 公認会計士からの情報漏洩のリスク

公認会計士の職務と秘密情報

会計・財務・税務を取扱う資格

公認会計士は、「財務書類の監査又は証明」(公認会計士法第2条第1項)をおこなう職業です。

 

また、「財務書類の調製をし、財務に関する調査若しくは立案をし、又は財務に関する相談に応ずる」(公認会計士法第2条第2項)こともできます。

 

さらに、公認会計士は、税理士法第3条第1項第4号により、税理士となる資格を有しています。このため、税理士として登録することにより、税理士業務をおこなうことができます。

 

このように、公認会計士は、監査業務を含む財務・会計・税務に関する業務を全般的におこなうことができます。これらの業務の専門家としては、最も広い範囲の業務を取扱うことができます。

スポンサード リンク

公認会計士の秘密保持義務・守秘義務

取扱う情報は非常に機密性が高い

財務・会計・税務に関する情報は、客観的な数字で正確に企業の実態を表したものです。当然ながら、これらの情報を正確に把握するためには、企業の業務内容をも正確に把握しておく必要があります。

 

このため、公認会計士が取扱う情報は、極めて機密性が高い情報であるといえます。特に、上場企業の会計監査を担当する公認会計士が保有する上場企業の情報は、いわゆる「インサイダー情報」であり、公表前に漏洩させてはならない情報です。

 

公認会計士法にもとづく秘密保持義務

以上のような事情から、公認会計士には、公認会計士法第27条により、秘密保持義務が課されています。

公認会計士法第27条(秘密を守る義務)

公認会計士は、正当な理由がなく、その業務上取り扱ったことについて知り得た秘密を他に漏らし、又は盗用してはならない。公認会計士でなくなった後であつても、同様とする。

 

この規定に違反した場合は、「二年以下の懲役又は百万円以下の罰金」が課されます(公認会計士法第52条)。

 

また、同様に、監査基準第2一般基準7によっても、秘密保持義務が課されています。

 

依頼者との間にも善管注意義務にもとづく秘密保持義務が発生する

なお、公認会計士法は、依頼者との関係を直接的に拘束する民事上の効果はありません。

 

ただ、一般的には、これらの規定や公認会計士に課せられる善管注意義務を根拠に、公認会計士は、依頼者に対して、当然に秘密保持義務を負っているとされます。

 

また、日本公認会計士協会が作成している各種監査契約書・約款では、簡単なものではありますが、守秘義務が規定されています。

日本公認会計士協会による情報セキュリティの指針

公認会計士は、一般的には、顧問契約を締結することで、日常的に依頼者と情報を交換しています。このため、いわゆる「士業」と呼ばれる専門家の中でも、日常的に、しかも広い範囲の情報を取扱う職業です。

 

このため、ある意味では、最も厳しい情報の管理を求められる職業です。このような事情から、日本公認会計士協会では、『公認会計士業務における情報セキュリティの指針』を策定しています。

 

これは、「公認会計士が監査に限定されないすべての業務において留意すべき情報セキュリティについての指針を提供することを目的として」作成されています。

 

このほか、日本公認会計士協会では、『業務上取り扱う電子データの漏洩を防ぐセキュリティの指針』も策定しています。

 

以上のように、公認会計士の業界では、日本公認会計士会が積極的に情報漏洩の対策の指針の作成や啓発活動をおこなっています。

公認会計士からの情報漏洩のリスク

情報漏洩があるからこその各種指針の策定

ただ、これだけ厳重に指針を策定しているということは、それだけ「被監査会社等に関する業務上重要な情報の漏洩、不正・私的利用が起こって」いることを意味しています(参照:「IT委員会報告第4号「業務上取り扱う電子データの漏洩を防ぐセキュリティの指針」の改正について」の公表について)。

 

従業員からの情報漏洩に注意

過去の判例では、解雇された従業員が会計事務所から情報(顧客先名簿、顧客料金表、フロッピー)を持ち出した事案で、その情報についての秘密管理性が争われたことがあります。

 

この事案では、会計事務所側の秘密管理性を否定したことがあります(大阪地裁判決平成11年9月14日)。つまり、この件の会計事務所では、営業秘密の要件である秘密管理性が否定される程度の管理しかおこなっていなかったことになります。

 

本件は、依頼者の情報が外部に漏洩したような事件ではありませんが、会計事務所の情報管理の実態が浮き彫りになった事件であるといえます。

 

個々の事務所ごとに慎重に判断する

当然ながら、必ずしもすべての会計事務所がこのような杜撰な管理をおこなっているとは限りませんが、個々の監査法人や公認会計士の情報管理体制は、個別具体的な判断が必要となります。

 

このため、依頼者として公認会計士や監査法人を利用する場合、念のため、日本公認会計士協会が定めた指針を遵守しているかどうかを確認してください。

 

また、すでに述べたとおり、監査契約書・監査約款には、守秘義務が規定されていますが、ごく簡単なものでしかありません。このため、場合によっては、別途秘密保持契約書を取り交わすことも検討するべきです。

スポンサード リンク

このエントリーをはてなブックマークに追加
お問い合わせ