秘密保持契約書の達人

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司法書士の秘密保持義務・守秘義務:目次

  1. 司法書士の職務と秘密情報
  2. 司法書士の秘密保持義務・守秘義務
  3. 登記・裁判にもとづく公開に注意
  4. 双方代理・双方嘱託による情報開示に要注意
  5. 土地・建物に関する情報開示に要注意

司法書士の職務と秘密情報

登記・民事紛争を取扱う資格

司法書士は、不動産登記、商業登記、供託などの法務局における手続きの代理や、書類の作成をおこなう職業です。これらについての相談に応じることもできます(司法書士法第3条第1項第1号から第5号まで)。

 

また、法務大臣の指定を受けた一定の研修を修了した司法書士(いわゆる「認定司法書士」)は、簡易裁判所における一部の手続きについて代理することができます(司法書士法第3条第1項第6号)。この他、小額(140万円以下)の民事紛争における、いわゆるADR(裁判外紛争解決手続)について当事者を代理することもできます。

 

一般的に、司法書士は、「登記の専門家」、特に「不動産登記の専門家」というイメージがあります。また、2003年の最低資本金の規制緩和、2006年の最低資本金の規制撤廃による会社設立の流行により、「商業登記の専門家」としても注目を集めました。

 

これに加えて、認定司法書士制度による簡裁代理権の付与、特に、近年の消費者金融業者(貸金業者)に対する過払い金返還請求での活躍などにより、民事紛争の解決の専門家としてのイメージも定着しています。

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司法書士の秘密保持義務・守秘義務

上記のように、司法書士は、多額の資産(土地、建物、金銭)が関係する業務(不動産登記)、会社の根幹に関係する業務(商業登記)、機密性の高い情報を取扱う業務(民事紛争の代理)をおこないます。

 

司法書士法にもとづく秘密保持義務

このため、司法書士には、司法書士法第24条により、秘密保持義務が課されています。

司法書士法第24条(秘密保持の義務)

司法書士又は司法書士であった者は、正当な事由がある場合でなければ、業務上取り扱つた事件について知ることのできた秘密を他に漏らしてはならない。

この規定に違反した場合は、「六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金」が課されます(司法書士法第76条)。

 

依頼者との間にも善管注意義務にもとづく秘密保持義務が発生する

なお、司法書士法は、依頼者との関係を直接的に拘束する民事的効果はありません。

 

ただ。一般的には、この規定や司法書士に課せられる善管注意義務を根拠に、司法書士は、依頼者に対して、当然に秘密保持義務を負っているとされます。

登記・裁判にもとづく公開に注意

司法書士の主要な職務は、法務局を相手方とした不動産登記の代理です。このため、司法書士は、主に依頼者と法務局を相手に職務をおこないます。

 

この点について、法務局の職員には、国家公務員法第100条により、秘密保持義務が課されています。このため、司法書士やその職務の相手方である法務局から情報が漏洩する可能性は低いといえます(ただし、まったく可能性がないわけではありません)。

 

また、司法書士が取扱う不動産登記、商業登記、簡裁での代理のいずれも、情報の公開(登記記載事項や裁判の審理の公開)が前提の業務です。このため、依頼人として一般的な司法書士の業務内容を依頼する場合は、さほど「情報漏洩」に関しては気にする必要はありません。

 

もっとも、当然ながら、公開したくない情報であっても、登記や裁判では公開しなければならなくなります(例:役員個人の住所など)。

 

このため、「情報漏洩」の問題よりも、むしろ法令にもとづいて「公開」が義務づけられている情報の取扱いについて、よく検討する必要があります。

双方代理・双方嘱託による情報開示に要注意

また、特に不動産登記の事例において、登記権利者と登記義務者の双方から不動産登記の事務の代理・嘱託を受けた場合(いわゆる「双方代理」、「双方嘱託」の場合)に秘密保持義務が問題となることがあります。

 

つまり、一方の依頼者(以下、「A」とします。)から開示された情報Xが他方の依頼者(以下、「B」とします。)にとって不利な情報の場合、司法書士がその情報XをBに開示することは、Aとの関係では秘密保持義務違反となる可能性があります。

 

しかしながら、だからといって司法書士がその情報Xを開示しないことは、Bとの関係では、司法書士と依頼者との(準)委任契約にもとづく善管注意義務違反や債務不履行となる可能性があります。

 

つまり、秘密保持義務と情報の開示義務(善管注意義務・契約履行義務)を巡って、司法書士が双方の依頼者との間で板挟みになることが考えられます。

土地・建物に関する情報開示に要注意

また、双方代理、双方嘱託でない場合であっても、過去に司法書士が不動産登記をおこなった物件について、別の依頼者から不動産登記の嘱託・代理を受ける際に問題となることがあります。

 

というのも、過去の依頼者との(準)委任契約で秘密保持義務が課されている情報(例:対象となる不動産に担保価値がないこと)が、現在の依頼者との(準)委任契約の義務に従って開示するべき情報であることがあります(大阪高裁判決平成9年12月12日)。

 

このように、依頼人として不動産登記に関して司法書士を利用する場合、情報の取り扱いや開示について、事前によく打ち合わせのうえ、委任契約書にもその内容を規定しておいてください。

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