秘密保持契約書の達人

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社会保険労務士の秘密保持義務・守秘義務:目次

  1. 社会保険労務士の職務と秘密情報
  2. 社会保険労務士の秘密保持義務・守秘義務
  3. 社会保険労務士が扱う個人情報
  4. 社会保険労務士本人以外からの情報漏洩に注意

社会保険労務士の職務と秘密情報

労務管理・社会保険・労使紛争等を取扱う資格

社会保険労務士は、労務管理・社会保険等の書類(帳簿)の作成、手続きの代理をおこなう職業です。これらの相談に応じたり、指導をおこなったりすることもできます(社会保険労務士法第2条第1項第1号、第1号の2、第1号の3、第2号、第3号)。

 

また、紛争解決手続代理業務試験に合格し、かつ、紛争解決手続代理業務の付記を受けた社会保険労務士(いわゆる「特定社会保険労務士」)は、労使紛争における、いわゆるADR(裁判外紛争解決手続)について当事者を代理することもできます(社会保険労務士法第2条第1項第1号の4、第1号の5、第1号の6)。

 

このように、社会保険労務士は、労務管理・社会保険・労使紛争などに関する業務を全般的におこなうことができます。これらの業務の専門家としては、弁護士に次ぐ広い範囲の業務を取扱うことができます。

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社会保険労務士の秘密保持義務・守秘義務

特に個人情報・プライバシーに関しては機密性が高い

労務管理・社会保険・労使紛争などの情報は、企業にとっては、競争力の源泉のひとつである労働者の情報です。他方、労働者にとっては、自己のプライバシーにかかわる個人情報でもあります。

 

このため、両者にとって、極めて機密性が高い情報であるといえます。特に個人情報は、漏洩してしまうと社会的に問題となる可能性があるため、特に取扱いに注意すべき情報であるといえます。

 

社会保険労務士法にもとづく秘密保持義務

このようなことから、社会保険労務士には、社会保険労務法第第21条により、秘密保持義務が課されています。

社会保険労務士法第21条(秘密を守る義務)

開業社会保険労務士又は社会保険労務士法人の社員は、正当な理由がなくて、その業務に関して知り得た秘密を他に漏らし、又は盗用してはならない。開業社会保険労務士又は社会保険労務士法人の社員でなくなつた後においても、また同様とする。

この規定に違反した場合は、「一年以下の懲役又は百万円以下の罰金」が課されます(社会保険労務士法第32条の2)。

 

依頼者との間にも善管注意義務にもとづく秘密保持義務が発生する

なお、社会保険労務士法は、依頼者との関係を直接的に拘束する民事的効果はありません。

 

ただ、一般的には、この規定や社会保険労務士に課せられる善管注意義務を根拠に、社会保険労務士は、依頼者に対して、当然に秘密保持義務を負っているとされます。

 

また、全国社会保険労務士会連合会が提供している参考用の委託契約書において、社会保険労務士法の秘密保持義務を反映した秘密保持義務が規定されています(同第13条)。

社会保険労務士が扱う個人情報

社会保険労務士の主要な職務は、依頼者の企業内における書類作成や行政機関等を相手方とした手続きの代理です。このため、社会保険労務士は、主に依頼者と行政機関等を相手に職務をおこないます。

 

この点について、行政機関等の職員には、国家公務員法第100条や地方公務員法第34条により、秘密保持義務が課されています。このため、社会保険労務士やその職務の相手方である行政機関等から情報が漏洩する可能性は低いといえます。

 

ただし、日本年金機構から個人情報が漏洩した事件があったように、行政機関等からの情報漏洩がまったくないわけではありません。

極めてセンシティブな情報を扱う

他方、社会保険労務士が取扱う大半の情報は依頼者の従業員の個人情報です。しかも、これらは社会保険料、給与計算、労使紛争などといった、極めてセンシティブな個人情報です。

 

また、場合によってはマイナンバーを取扱うことにもなります。

 

このため、社会保険労務士の過失や第三者の行為による個人情報の漏洩のリスクを考慮する必要があります。

社会保険労務士本人以外からの情報漏洩に注意

例えば、労務管理・社会保険の書類の作成や帳簿の記帳のためのシステムやソフトウェアなどに不正アクセスなどがあった場合は、外部に情報が漏洩する可能性もあります。

 

また、これらのシステム・ソフトウェアの開発を外注する場合やその保守点検を外注する場合、外注先であるシステム開発業者から情報が漏洩する可能性もあります。

 

情報漏洩は従業員との関係悪化の原因となる

従業員の個人情報が漏洩したとしても、企業としては、出訴率の関係で、直接的な損害賠償責任などのリスクはあまり高くはないといえます。しかしながら、従業員の士気の低下、新規採用の際の応募者への影響など、間接的な損害が発生する可能性はあります。

 

また、大企業のように、組合がある企業の場合、従業員の個人情報の漏洩は、組合との関係の悪化の原因となる可能性も考えられます。

 

このため、依頼者として社会保険労務士を利用する場合、念のため、顧問契約書には、秘密保持義務を明記するようにしてください。

 

また、すでに述べたとおり、全国社会保険労務士会連合会が提供している委託契約書には、守秘義務が規定されていますが、ごく簡単なものでしかありません。このため、場合によっては、別途秘密保持契約書を取り交わすことも検討するべきです。

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