秘密保持契約書の達人

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残存条項と契約終了後の義務:目次

  1. 残存条項とは
  2. 「残存条項がなければ自由に使っても良い」わけではない
  3. どの条項を何年残すのかを検討する
  4. 秘密保持義務の残存期間の設定

残存条項とは

残存条項とは、契約終了後であっても、一部の契約条項の効力を存続させるための条項です。英語表記(survival clause)から、「サバイバル条項」と表現することもありますが、一般的な日本語表記の契約書の見出しでは、「残存条項」と表現します。

 

具体的には、次のように規定します(最も単純なパターン)。

第○条(残存条項)

本契約終了後においても、第○条、第○条および第○条は、なお効力を有する。

秘密保持契約書においては、残存条項は、特に秘密保持義務の効力を存続させるために規定されます。

 

また、情報漏洩があった場合の対応や、損害賠償の規定なども残存条項の対象となることがあります。

 

本来であれば、契約終了後に秘密情報の漏洩や不正使用がないようにするために、契約の終了と同時に秘密情報のすべてを返還してもらい、または再生不可能な状態で破棄・消去してもらうべきです。

 

しかしながら、現実的には、完全な形で返還・廃棄・消去は難しいものと思われます。このような事情があるため、秘密保持義務に関連する条項は、契約が終了した後でも、有効となるようにします。

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「残存条項がなければ自由に使っても良い」わけではない

秘密情報の受領者にとっては、残存条項がない秘密保持契約書のほうが好ましいといえます。ただ、残存条項がないからといって、契約が終了した直後から秘密情報を勝手に使ってもいいかというと、必ずしもそうとはいえません。

 

このような行為は、場合によっては、不正競争防止法や著作権法に違反することになる可能性があります。また、民法上の不法行為として損害賠償の対象となる可能性もあります。

 

「秘密情報の使用許諾」条項も終了する

というのも、「秘密情報の使用許諾」で解説したとおり、秘密情報は、原則として勝手に使用できるものではなく、開示者から許諾を得ることで使用することができるものです。

 

ところが、秘密保持契約が終了した時点で、秘密情報の使用許諾が規定された条項の効果も(残存条項とされない限りは)終了するため、受領者は、元どおり、秘密情報を勝手に使用できなくなります。

 

このため、秘密保持契約の終了後、何の権限もないにもかかわらず、受領者が秘密情報を勝手に使用した場合は、原則どおり、不正競争防止法や著作権法の違反や損害賠償請求の対象となる可能性があります。

どの条項を何年残すのかを検討する

残存条項として一部の契約条項を指定する場合、開示者としては、どの条項を残すのかを検討します。

 

残存条項の対象としては、主に秘密保持義務、秘密情報の管理、秘密情報が漏洩した場合の対応、損害賠償、競業避止義務などが規定されている条項を残すことが考えられます。特に、秘密情報が漏洩した場合を想定して残存条項の対象を検討してください。

 

「秘密情報の使用許諾」条項を残すこともある

また、秘密情報の使用許諾については、秘密保持契約や付随する契約の性質によっては、残存条項の対象とするべきかそうでないかが分かれます。

 

例えば、コンサルティング契約に付随する秘密保持契約のように、契約の終了後、開示された秘密情報(コンサルティングの内容)を使用する場合、受領者としては、当然に秘密情報の使用許諾の条項を残存条項の対象するべきです。

 

この際、なるべく長期間(できれば半永久的)の残存条項とするべきです。

 

他方、フランチャイズ契約に付随する秘密保持契約のように、契約の終了後、開示された秘密情報(経営にノウハウやマニュアル)が使用されないようにするためには、開示者としては、秘密情報の使用許諾の条項を残存条項の対象としてはいけません。

 

むやみに残存条項の対象としない

なお、あまりに多くの残存条項の対象としてしまうと、契約が終了した意味がなくなってしまいます。

 

契約条項の大半を残存条項としたい場合は、秘密保持契約を終了させることなく、契約期間を長く設定することで対応してください。

 

ちなみに、このような考え方にもとづき、そもそも契約期間を設定せずに、半永久的な秘密保持契約書をたまに見かけます。ただし、これは後述の残存期間と同様、有効性に疑問が残ります。

秘密保持義務の残存期間の設定

また、残存条項では、残存期間を設定することがあります。

 

一般的な秘密保持契約書では、秘密保持義務の残存条項を半永久的な内容としているものもあります。しかし、これは、契約条項としては、必ずしも有効となるとは限りません。

 

陳腐化した秘密情報の保護は無効になりえる

というのも、多くの秘密情報は時間経過とともに陳腐化していきます。長期間時間が経過した秘密情報は、たとえ秘匿されていたいとしても、無価値となることもあります。

 

このように陳腐化した秘密情報について、なお秘密保持義務を課すことは、受領者の義務としては不当に厳しいものであり、契約上は無効となる可能性もあります。

 

ただ、どのような秘密情報が何年程度秘匿されるべきなのかは、個別具体的な秘密情報の価値によって変わってきます。このため、一概に残存期間の年数を提示することは難しいといえます。

 

以上の点を踏まえ、陳腐化が早い秘密情報についての秘密保持義務の残存条項については、短めに設定することも検討してください。

 

逆に、陳腐化が遅い秘密情報(特に、顧客情報や個人情報など、営業秘密の要件を充たしている情報)については、比較的長期間(場合によっては半永久的)の残存条項でも、差し支えないものと思われます。

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