情報漏洩があった場合、真っ先に思い浮かぶことは、情報漏洩をさせてしまった当事者に、その損害を賠償してもらうことです。
ですから、たいていの秘密保持契約書には、情報を開示される側(以下、「受領者」とします)に損害賠償責任を課しています。
それでは、情報を開示する側(以下、「開示者」とします。)は、ただ単に受領者に損害賠償責任を課しておけばいいのかというと、そう単純ではありません。
ここに、情報漏洩の損害賠償請求の難しさがあります。
最悪の事態を想定しているか?でも指摘したとおり、情報漏洩についての損害賠償請求では、あくまで、実際の損害の金額しか請求できません。
こうなると、実際に損害賠償を請求するには、非常に困難が伴います。
というのも、実際に、どのような損害があったのか、つまり損害の範囲を確定することは、そう簡単なことではありません。
事実上、せいぜい「氷山の一角」のぶんくらいしか、損害の範囲を確定できないでしょう。
仮に損害の範囲を確定できたとしても、次に、その損害の具体的な金額を算定しなければなりません。
ですが、情報の価値を客観的に算定することもまた、簡単なことではありません。
一応、民事訴訟法によって、裁判所が、証拠調べの結果にもとづいて、損害額を認定することもできます。
ただ、この損害額の認定も、開示者にとって、必ずしも満足のいく額となるとは限りません。
以上のように、損害額の算定することは極めて困難ですから、ただ単に受領者に損害賠償責任を課したところで、実際に損害を完全に回復できるかどうかは疑問が残るところです。
そこで、
より損害賠償請求の実行性を高めるために、あらかじめ具体的に金額を決めておくことになります。
損害賠償額を具体的に決めておくことによって、実際に損害が発生した際には、その金額の損害賠償を請求できます(民法420条)。
しかも、開示者は、損害の多少に関わらず、しかも契約違反の事実の立証さえすれば、損害賠償の請求をできることになっています。
つまり、
単に秘密保持契約で受領者に対する損害賠償責任を決めておくことよりも、より具体的に金額を定めておいたほうが、より迅速かつ簡単に損害の回復ができるわけです。
ただし、損害賠償の額を定めておいた場合は、注意点があります。
それは、
金額を決めただけでは、それ以上の損害が発生した場合に、それ以上の損害賠償請求ができなくなってしまう可能性がある、ということです。
ですから、
実際の損害があらかじめ契約によって決めておいた損害賠償を上回ってしまった場合には、その上回った金額の損害賠償請求をできるようにしておきましょう。
こうすることによって、あらかじめ決めておいた損害賠償の額は、いわば、
最低限の損害賠償金額ということになります。
なお、
事業者と労働者との間の契約に関しては、労働基準法第16条によって、損害賠償額を決めておくことが禁止されています。
これは、秘密保持契約においても当てはまることです。
当然、
罰則もあります(同法第119条第1号)ので、注意しましょう。