秘密保持契約書の達人

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秘密情報とは:目次

  1. 「秘密情報」は決まっていない
  2. 秘密情報の定義は契約当事者が合意のうえ決定する
  3. 秘密情報の定義は利害が対立する
  4. 片務的契約・双務的契約の双方で重要
  5. 単に定義の「しかた」を知らないために揉めることも

「秘密情報」は決まっていない

自由に決められる=「なんでもあり」の秘密情報の定義

秘密情報とは、契約実務上、秘密時保持義務の対象となる情報をいいます。

 

ただし、これは、あくまで一般論のうえでの話です。秘密情報の内容については、法律上、明確に定義づけられてはいません。

 

また、その性格上、あらかじめ法律で明確に決めておくことは適当ではありません。というのも、秘密保持義務の対象となる秘密情報は、個々の取引の実態に応じて決めるべきものであり、法律て統一的に定義づけるものではないからです。

 

これは、秘密保持義務の対象となる情報が、本来は何も決まっていないことを意味します。このため、秘密保持契約の実務では、秘密情報そのものを明確に定義づける必要があります。

 

この点について、いわゆる債権法改正・民法改正の際にも、契約における秘密保持義務、秘密保持契約、秘密情報の定義などを規定することは見送られました。

 

参考:秘密保持契約書とは

 

一部の法律には秘密情報の定義がある

なお、一部の法律により、特定の職業・業種には秘密保持義務が課されることがあります。ただ、このような法律においても、「秘密情報」の定義は決まっていないか、または非常に広くあいまいな定義であることが多いです。

 

例えば、「その業務上取り扱った事項について知り得た秘密」(行政書士法第12条など)という定義がありますが、この場合も、「秘密」の定義は必ずしも明らかではありません。

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秘密情報の定義は契約当事者が合意のうえ決定する

契約当事者が自由に、かつ責任をもって「決めなければならない」

このように、秘密情報の定義は、法律で決まっていません。逆にいえば、契約当事者が合意したうえで、秘密保持契約書で自由に決定することができるということです。また、決定しなければならないものでもあります。

 

この点について、一般的には、非常に広範囲な情報(例:「契約の履行に伴って開示されるすべての情報」など)を秘密情報とすることが多いようです(ただし、この定義では非常に範囲が広く、必ずしも適切とはいえませんが)。

 

また、秘密情報の例外を規定することもあります。

 

秘密情報の例外

 

この他にも、秘密情報の定義は、契約内容や情報の性質によって、変更することが可能です。ただ、実際に秘密情報の内容を定義づけるためには、それなりの契約文章を起案する実務能力を要します。

秘密情報の定義は利害が対立する

秘密情報の範囲=秘密保持義務の範囲=使用許諾の範囲

秘密保持義務の対象となる秘密情報の範囲は、そのまま秘密保義務の範囲ともいえます。

 

また、目的外使用の可否の判断基準ともなります(秘密情報に該当しない情報は、著作権法等の他の法令等に違反しない限り、原則として自由に使用できます)。

 

開示者は広く・受領者は狭く

このような性質から、情報を開示する側(=秘密保持義務を課す側)としては、秘密情報の定義をより広くしたがります。これにより、なるべくたくさんの情報を秘密保持義務の対象としたがります。

 

他方、情報を開示される側(=秘密保持義務を守る側)としては、秘密情報をより狭くしたがります。これにより、なるべく少ない情報を秘密保持義務の対象とし、秘密保持義務を免れようとします。

 

このため、往々にして、「秘密情報の定義=秘密保持義務の範囲=使用許諾の範囲」を巡って利害が対立します。この利害の対立を調整し、秘密情報の定義について妥結するためには、柔軟な対応が求められることになります。

片務的契約・双務的契約の双方で重要

一方的秘密保持義務では当然に利害が対立する

なお、秘密保持契約には、当事者一方に秘密保持義務が課されるもの(片務的秘密保持契約)と当事者双方に秘密保持義務が課されるもの(双務的秘密保持契約)とがあります。

 

片務的秘密保持契約の場合は、開示者が一方的に受領者に秘密保持義務を課しますので、完全に当事者間で利害が対立します。このため、交渉が難航することが多く、しばしば破談となることもあります。

 

双方向の秘密保持義務でも利害は対立する

他方、双務的秘密保持契約の場合であっても、よく利害が対立します。利害が対立しないことは滅多にありません。

 

通常、秘密保持契約においては、当事者の一方が他方の当事者に対してより多くの情報を開示することになります。

 

このため、結局は多くの情報の開示を受けた側の当事者にとっては、相対的に義務が厳しくなります。結果として、秘密情報の定義を巡って、当事者間で利害が対立します。

単に定義の「しかた」を知らないために揉めることも

これらの点について、実態に合った複数の秘密情報を定義づける方法を知らないと、相手方に対する柔軟が提案ができずに、契約交渉になりません。

 

管理人の経験では、単に秘密情報の定義・規定のしかたを知らないために、実態にあった提案ができずに破談となった、というパターンは意外に多いです。

 

このため、秘密情報の定義について相手方と妥結するためには、相応の契約実務についての実務能力、特に秘密情報の定義の「引き出し」の多さが重要となります。

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