秘密保持契約書の達人

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営業秘密と著作権の違い:目次

  1. 手続き不要で情報を秘匿して保護できる
  2. 確定日付を活用する
  3. 保護対象が異なる
  4. 保護の程度は共通している

手続き不要で情報を秘匿して保護できる

自然発生するため権利取得の手間・費用がかからない

営業秘密と著作権は、ともに法的な手続きを必要とせずに発生する権利です。このため、要件さえ充たせば、当然に保護されます。

 

官公署等で煩わしい手続きをおこなったり、金銭を支払ったりすることは、必要ではありません(ただし、一定の手続きを経たほうがより強く保護される可能性があります。後述)。

 

このように、権利の取得のため(≠維持のため)の費用があまりかからない、という点は、大きなメリットといえます。

 

情報を秘匿して保護できる

また、より重要な点として、営業秘密と著作権のある著作物は、情報の存在を秘匿したまま保護することができます。これは、公開が原則となる特許権などの他の知的財産権にはない、極めて大きなメリットであるといえます。

 

ただし、法的な手続きが不要で秘匿されているということは、その情報の存在や営業秘密や著作物としての要件を充たしていることを立証するための証拠が少ないことを意味します。

 

例えば、一般的な著作物の場合は、公開されることが原則となります(例:本、楽曲、歌、ホームページなど)。このため、少なくとも存在そのものの立証は、比較的簡単です。しかし、秘匿されている著作物の場合は、そうはいかなくなります。

 

このため、秘密情報を著作権として保護する場合は、トラブルになる前に、あらかじめ秘密情報の「存在」そのものの証拠を残しておく必要があります。これは、情報を営業秘密として保護する場合であっても同様です。

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確定日付を活用する

「過去に存在したこと」を証明できる

このように、秘匿した情報の存在の証拠として残すためには、「確定日付」の手続きが役立ちます。

 

確定日付とは、公証人が私文書=私署証書(私人の署名または記名押印のある文書)に押印する日付が確定された印章(確定日付印)のことで、その日付現在に、押印された文書が存在することを証するものです。

 

この確定日付の性質を利用して、著作物そのものが確定日付の日現在に存在したことを証拠として残します。

 

具体的には、保護したい情報を書面化・データ化(CD-Rに記録等)して、公証役場で確定日付を押印してもらいます。

 

こうすることで、少なくとのその情報が記載された書面・データが、その確定日付の時点で存在したことの証拠になります。また、併せて、文化庁やソフトウェア情報センターに登録します。

 

ただし、確定日付は、情報の内容に対してなんらかの影響を与えるものではありません。あくまで、単にその情報の記録媒体(書面・CD-R等)が存在することだけを証明するものです。

 

発明である営業秘密については「先使用権」制度の利用のためにも重要

なお、このような対策を取っておくことで、自社が保有する秘密情報、特に特許の要件を充たした発明について、仮に第三者の独自の発明にもとづいて特許を取得されてしまった場合であっても、いわゆる「先使用権」の行使ができる可能性も生まれてきます。

 

参考:著作権の主張公証制度の活用

保護対象が異なる

営業秘密=アイデア、著作権=表現

営業秘密は、「技術上又は営業上の情報」が保護対象となりますが、著作権は、いわゆる「著作物」=「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法第2条第1項第1号)しか保護対象となりません。

 

要するに、営業秘密はアイデア、著作権は表現を保護対象としています。

 

著作物は、秘匿するべき事業上の情報としては、かなり狭い範囲の情報であるといわざるを得ません。

 

このため、保護対象の情報の範囲が比較的が広い営業秘密に比べて、著作権による情報の保護は、使い方が限定される方法です。

 

主にプログラム著作物とデータベース著作物が保護対象

以上の点から、事業において活用できる保護対象としては、具体的はに社内で使用するソフトウェア、システム、プログラムなどが考えられます(プログラム著作物)。

 

この他では、事業上有用なデータの編集方法(編集物著作物・データペース著作物)などが保護の対象となり得ます。

 

逆に、一般的に営業秘密として認められる可能性があるものであっても、著作権として認められないものが多くあります。

 

具体的には、設計図(ただし、判例で著作物性を肯定しているものもあります)、アルゴリズム等(著作権法第10条第3項各号)、個々の顧客情報などが該当します。

保護の程度は共通している

なお、権利の保護という点では、次のとおり、共通している部分があります。

  1. 差止請求権(不正競争防止法第3条・著作権法第112条)
  2. 損害の額の推定等(不正競争防止法第5条・著作権法第114条)
  3. 具体的態様の明示義務(不正競争防止法第6条・著作権法第114条の2)
  4. 書類の提出等(不正競争防止法第7条・著作権法第114条の3)
  5. 損害計算のための鑑定・鑑定人に対する当事者の説明義務(不正競争防止法第8条・著作権法第114条の4)
  6. 相当な損害額の認定(不正競争防止法第9条・著作権法第114条の5)
  7. 秘密保持命令(不正競争防止法第10条・著作権法第114条の6)

この点について、若干ではありますが、著作権法のほうが不正競争防止法よりも強く権利を保護しています。

我が国の知的財産法の体系的整理

経済産業省知的財産政策室;『営業秘密と不正競争防止法』(平成25年8月)より引用)

 

ただし、営業秘密は(理論上)半永久的に保護されますが、著作権は、次のとおり、保護期間が限られています。

  1. 著作者の死後(共同著作物にあっては、最終に死亡した著作者の死後)50年(著作権法第51条第2項)
  2. 無名または変名の著作物の著作権は、その著作物の公表後50年。ただし、その存続期間の満了前にその著作者の死後50年を経過していると認められるものは、その著作者の死後50年(著作権法第52条第1項)
  3. 法人その他の団体が著作の名義を有する著作物の著作権は、その著作物の公表後50年(その著作物がその創作後50年以内に公表されなかったときは、その創作後50年)(著作権法第53条第1項)
  4. 映画の著作物の著作権は、その著作物の公表後70年(その著作物がその創作後70年以内に公表されなかつたときは、その創作後70年)(著作権法第54条第1項)

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