秘密保持契約書の達人

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社員・従業員・パート・アルバイトの監督義務:目次

  1. 開示者と受領者の労働者との関係
  2. 受領者による労働者の管理監督義務
  3. 在職中の労働者の秘密保持義務
  4. 退職後の受領者の労働者の秘密保持義務
  5. 契約条項への反応で情報管理の状態を見極める

開示者と受領者の労働者との関係

情報は人を介して流出する

秘密情報が漏洩する原因を様々ありますが、受領者の内部的な原因のひとつとして、労働者の故意または過失による漏洩があります。

 

具体的には、例えば、ノートパソコンの持ち出し、Winny(ウィニー)などのファイル交換ソフトのインストール、不用意なファイルの取扱いなどのサイバーアタックによるウィルスへの感染、顧客リストの持出し(横領・窃盗)などがあります。

 

このような事態を防止するためには、秘密保持契約による法的手当てが必要となります。

 

開示者は受領者の労働者に直接秘密保持義務を課すことができない

ただ、秘密保持契約の契約当事者で解説したとおり、受領者の労働者は、厳密には契約当事者ではなく、第三者です。

 

このため、企業間の秘密保持契約では、秘密情報の開示者は、受領者の労働者に対して、直接的に秘密保持義務などを課すことができません。

 

だからといって、開示者が受領者の労働者と直接秘密保持契約を結んだり、受領者の労働者から秘密保持誓約書を徴収したりしたとしても、その秘密保持契約は有効とならない可能性があります。

 

このため、理論上、開示者は、受領者の労働者に対して、直接秘密保持義務を課すことは難しいといえます。

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受領者による労働者の管理監督義務

このような事情があるため、開示者としては、受領者との秘密保持契約において、受領者に対して、受領者の労働者の管理監督を義務づけます。

 

具体的には、次のような要求が考えられます。

  1. 労働者に対して書面(秘密保持誓約書)の徴収を含めた秘密保持義務を課すこと
  2. 労働者を監督すること
  3. 就業規則、情報管理規程、その他の社内規程を整備すること

また、秘密情報の開示を受ける第三者で解説したとおり、秘密情報の開示や使用を許諾する個々人の労働者や部署などを特定することがあります。これにより、受領者の会社内への秘密情報の拡散を防止することができます。

 

ただし、これらの契約条項の内容があまりに拘束性が高く、受領者にとって不当に厳しいものであれば、契約条項として無効となる可能性もあります。

在職中の労働者の秘密保持義務

受領者がその労働者を管理監督する際には、受領者とその労働者との契約関係が重要となります。

 

受領者とその労働者との契約関係は、労働契約(雇用契約)です。この労働契約(雇用契約)の義務として、受領者の労働者に秘密保持義務が課されるのかどうかという点は、その労働者が在職中か退職しているかによって、結論が異なります。

 

在職中は労働者は当然に秘密保持義務を負う

まず、在職中の労働者についてはです。一般的に、在職中の労働者は、労働契約(雇用契約)に付随する義務として、信義誠実の原則(いわゆる「信義則」。民法第1条第2項参照)により、当然に会社の秘密情報を外部に漏洩させない秘密保持義務(+競業避止義務)を負っているとされます。

 

このため、労働契約書(雇用契約書)や就業規則がない場合であっても、受領者の労働者には、最低限の秘密保持義務が課されていると思われます。

 

また、労働者が10人以上の企業の場合、就業規則の作成が義務づけられますが、一般的な就業規則には、秘密保持義務の規定があります。この点からも、労働者には、秘密保持義務が課されているといえます。

 

注意喚起のためにも改めて秘密保持誓約書の徴収を求める

しかしながら、このような事情があるとはいえ、開示者としては、受領者に労働者から秘密保持誓約書などを徴収させることにより、労働者の受領者に対する在職中の秘密保持義務を課すことを求めるべきです。

 

こうすることで、秘密情報を取扱う労働者に対して、注意喚起ができます。

 

ただし、開示者と受領者との間の秘密保持契約において、受領者と労働者との関係について契約上の義務として規定することは、必ずしも適切ではないという考え方もあります(管理人はそのような立場ではありませんが)。

退職後の受領者の労働者の秘密保持義務

退職後は原則として秘密保持義務を負わない

次に、退職した労働者についてです。一般的に、退職後の労働者は、原則として会社の情報を外部に漏洩させない秘密保持義務(+競業避止義務)を負わないとされています(ただし、最近の判例では、これとは逆の考え方も判示される傾向があります)。

 

このため、開示者としては、退職後の受領者の労働者による情報漏洩の可能性を常に念頭に置かなければなりません。

 

具体的な対策としては、開示者としては、受領者労働者が退職する際に、受領者に労働者からの秘密保持誓約書などを徴収させることにより、労働者の受領者に対する退職後の秘密保持義務を課すことを求めるべきです。

 

秘密保持誓約書では秘密情報を個別具体的に特定する

この秘密保持誓約書は、「退職の時点」で徴収することに意味があります。つまり、在職中に取り扱っていた秘密情報を特定できる点に意味があります。

 

このため、入社の時点や在職中に秘密保持誓約書を徴収していたとしても、改めて退職時に徴収するべきです。この際、秘密情報の定義はあいまいなものとせずに、在職中に取り扱っていた秘密情報を個別具体的に特定した内容とします。

 

ただし、これについても、契約上の義務として規定することは、必ずしも適切ではないという考え方もあります(こちらも、管理人はそのような立場ではありません)。

契約条項への反応で情報管理の状態を見極める

実は「秘密管理性」を充たすための初歩的な対応

なお、このように労働者から秘密保持誓約書を徴収することは、受領者の保有する情報が営業秘密として認められるための条件(「秘密管理性」)を充たす方法でもあります。

 

これは、『営業秘密管理指針』(経済産業省;2003年1月30日(2015年1月28日全面改訂))でも推奨されている方法です。

 

参考:営業秘密の要件1(秘密管理性)

 

このため、開示者としては、受領者を説得する際に、受領者自身の営業秘密を保護するためでもある、という視点も併せて説明することにより、条件交渉をスムーズに進めることも期待できます。

 

秘密保持誓約書への対応を渋る企業は情報管理に問題あり

逆にいえば、退職時の秘密保持誓約書の徴収に難色を示す受領者は、それだけ情報の管理が杜撰である可能性も考えられます。

 

より具体的に表現すれば、『営業秘密管理指針』が推奨するレベルの情報管理体制となっていない、下手をすると『営業秘密管理指針』を知らない、という可能性があります。

 

つまり、開示者としては、受領者による反応から、受領者の情報管理の状態を推測することもできるわけです。

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