秘密保持契約書の達人

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役員・取締役・監査役の監督義務:目次

  1. 開示者と受領者の役員等との関係
  2. 受領者による役員等の管理監督義務
  3. 在職中の役員等の労働者の秘密保持義務
  4. 退任後の受領者の労働者の秘密保持義務

開示者と受領者の役員等との関係

機密性が高い情報が漏洩するリスクがある

秘密情報が漏洩する原因を様々ありますが、受領者の内部的な原因のひとつとして、役員等の故意または過失による漏洩があります。

 

労働者による情報漏洩に比べると件数自体は多くないようですが、その代わりに悪質なケースや甚大な被害になるケースもあるようです。

 

具体的には、例えば、Winny(ウィニー)などのファイル交換ソフトのインストール、事業の企画を持ちだしたうえでの競合他社への転職、顧客リストの持出し(横領・窃盗)などがあります。

 

このような事態を防止するためには、秘密保持契約による法的手当てが必要となります。

 

開示者は受領者の役員等に直接秘密保持義務を課すことができない

ただ、秘密保持契約の契約当事者で解説したとおり、受領者の役員等は、厳密には、厳密には契約当事者ではなく、第三者です。

 

このため、企業間の秘密保持契約では、秘密情報の開示者は、受領者の役員等に対して、直接的に秘密保持義務などを課すことができません。

 

だからといって、開示者が受領者の役員等と直接秘密保持契約を結んだり、受領者の役員等から秘密保持誓約書を徴収したりしたとしても、その秘密保持契約は有効とならない可能性があります。

 

このため、理論上、開示者は、受領者の役員等に対して、直接秘密保持義務を課すことは難しいといえます。

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受領者による役員等の管理監督義務

このような事情があるため、開示者としては、受領者との秘密保持契約において、受領者に対して、役員等の管理監督を義務づけます。具体的には、次のような要求が考えられます。

  1. 役員等に対して書面(秘密保持誓約書)の徴収を含めた秘密保持義務を課すこと
  2. 役員等を監督すること
  3. 役員服務規程、情報管理規程、その他の社内規程を整備すること

また、秘密情報の開示を受ける第三者で解説したとおり、秘密情報の開示や使用を許諾する個々人の役員等を特定することもあります。これにより、受領者の会社内への秘密情報の拡散を防止することができます。

 

ただし、これらの契約条項の内容があまりに拘束性が高く、受領者にとって不当に厳しいものであれば、契約条項として無効となる可能性もあります。

在職中の役員等の労働者の秘密保持義務

受領者がその役員等を管理監督する際には、受領者とその役員等との契約関係が重要となります。

 

在任中は役員等は善管注意義務・忠実義務にもとづく秘密保持義務を負う

一般的な会社としての受領者と役員等との契約関係は委任契約(民法第643条)です。委任契約には善管注意義務(民法第644条)がありますので、これを根拠として、役員等は、秘密保持義務を負うとされています。

民法第463条(委任)

委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。

民法第464条(受任者の注意義務)

受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。

また、会社法では、役員等に対する秘密保持義務は、直接的には課されていません。しかしながら、取締役には、忠実義務(会社法第355条)が課されています。この忠実義務からも、取締役は、秘密保持義務を負うとされています。

会社法第355条(忠実義務)

取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならない。

 

注意喚起のためにも改めて秘密保持誓約書の徴収を求める

ただ、このような事情があるとはいえ、開示者としては、受領者に役員等から秘密保持誓約書などを徴収させることにより、労働者の役員等に対する在任中の秘密保持義務を課すことを求めるべきです。

 

一般的に、役員等は、労働者に比べて会社に対する忠誠心が高く、高度な注意義務も果たす傾向が強いといえますが、必ずしも情報管理に対する認識が十分であるとはいえません。

 

このため、秘密保持誓約書の徴収により、情報管理に対する注意喚起を促すことにも一定の意味があります。

 

ただし、開示者と受領者との間の秘密保持契約において、受領者と役員等との関係について契約上の義務として規定することは、必ずしも適切ではないという考え方もあります(管理人はそのような立場ではありませんが)。

退任後の受領者の労働者の秘密保持義務

退職後は原則として秘密保持義務を負わない

退任した役員等については、一般的には、秘密保持義務が課されるとされる見解が多いといえます。

 

ただ、これは個別の事情によって結論が異なる可能性もありますので、開示者としては、退任後の受領者の役員等による情報漏洩の可能性を常に念頭に置かなければなりません。

 

秘密保持誓約書では秘密情報を個別具体的に特定する

具体的な対策としては、役員等が退任する際に、受領者が役員等から秘密保持誓約書などを徴収して、役員等に秘密保持義務を課すことを求めることが考えられます。

 

この秘密保持誓約書は、「退任の時点」で徴収することに意味があります。つまり、在任中に取り扱っていた秘密情報を特定できる点に意味があります。

 

このため、就任の時点や在任中に秘密保持誓約書を徴収していたとしても、改めて退任時に徴収するべきです。この際、秘密情報の定義はあいまいなものとせずに、在任中に取り扱っていた秘密情報を個別具体的に特定した内容とします。

 

ただし、これについても、契約上の義務として規定することは、必ずしも適切ではないという考え方もあります(こちらも、管理人はそのような立場ではありません)。

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