弁護士の秘密保持義務・守秘義務:目次
弁護士の職務と秘密情報
最も広い範囲の事案を取扱う法律系資格
弁護士は、いうまでもなく、主に裁判の際の訴訟代理人として活躍する職業です。弁護士の職務は、法令用語としては「法律事務」といいます(弁護士法第3条)。
弁護士は、法律事務に該当する司法書士、海事代理士、弁理士、税理士の業務をおこなうことができます。また、弁護士は、弁理士、税理士、社会保険労務士、行政書士などに登録することができます。
このため、法律の専門家としては、最も広い範囲の事案を取扱うことができる資格・職業といえます。
弁護士は、その職務の特性上、極めて機密性が高い情報を取扱います。特に、訴訟につながる可能性のあるトラブルとなっている(=争訟状態の)事案の場合は、その内容や、トラブルとなっているという事実そのものが、第三者に漏洩すると非常に問題となります。
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弁護士の秘密保持義務・守秘義務
弁護士法にもとづく秘密保持義務
このように機密性が高い情報を取扱うことから、弁護士には、弁護士法第23条により、秘密保持義務が課されています。
弁護士法第23条(秘密保持の権利及び義務)
弁護士又は弁護士であった者は、その職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、義務を負う。但し、法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
なお、弁護士法では、弁護士法第23条違反による罰則は規定されていませんが、刑法第134条により、罰則が規定されています
刑法にもとづく罰則
刑法第134条(秘密漏示)
1 医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、六月以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
2 宗教、祈祷若しくは祭祀の職にある者又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときも、前項と同様とする。
また、弁護士法23条違反を根拠に、弁護士が弁護士会から懲戒処分された事例もあります。
このように、弁護士には、法律上、非常に厳しい秘密保持義務が課されています。
依頼者との間にも善管注意義務にもとづく秘密保持義務が発生する
なお、これらの法律には、依頼者との間を直接的に拘束する民事上の効果はありません。
ただ、一般的には、これらの規定や弁護士に課せられる善管注意義務を根拠に、弁護士は、依頼者に対して、当然に秘密保持義務を負っているとされます。
ちなみに、弁護士法第23条の「秘密を保持する権利」は、他の法律ではあまり例がありません。
訴訟による秘密情報の開示
このように、弁護士には非常に厳しい秘密保持義務が課されてます。このため、一般的には、弁護士から違法な形で秘密情報が漏洩することはあまりありません。
しかしながら、弁護士に情報を開示する場合、「合法的に」情報が「漏洩」して(開示されて)しまう可能性があります。
特に問題となるのが、訴訟における開示です。
裁判では情報が公開される
日本の裁判では、公開審理が原則とされています。このため、一部の例外(いわゆる「インカメラ審理」)を除いて、裁判で提出する資料は公開されます。
このため、特に秘密情報に関する訴訟について、弁護士に依頼する場合は、訴訟によって秘密情報が裁判の過程で公開されるリスクを常に念頭におかなければなりません(もちろん、通常の弁護士は依頼者の許可なく情報を公開しません)。
場合によっては、少々コストが高くついても、秘密情報を保護するために、あえて訴訟によらずに解決することも検討するべきです。
なお、不正競争防止法が適用される訴訟の場合は、一定の手続きをおこなうことにより、営業秘密を秘匿したまま裁判(いわゆる「インカメラ審理」)をおこなうことができる場合もあります。
弁護士会照会による秘密情報の開示
また、自社の依頼先や顧問の以外の弁護士に対して、合法的に情報を開示しなければならなくなる可能性もあります。いわゆる、弁護士会による照会請求の場合です(第23条の2)。
弁護士法第23条の2(報告の請求)
1 弁護士は、受任している事件について、所属弁護士会に対し、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることを申し出ることができる。申出があつた場合において、当該弁護士会は、その申出が適当でないと認めるときは、これを拒絶することができる。
2 弁護士会は、前項の規定による申出に基き、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。
弁護士は、弁護士会を通じて、あらゆる者に対して、情報の開示を請求することができます。この場合、弁護士会が適当でないと認めない限り、情報の開示を求められた者は、その請求に応じなければなりません。
この点について、現在の弁護士法では、弁護士会からの照会の求めを拒絶したとしても、なんらかの制裁規定があるわけではありません。このため、少なくとも、刑事罰や行政処分を受けるということは考えにくいものと思われます。
照会請求の拒絶は損害賠償の対象となることも
しかしながら、過去の判例では、弁護士会からの照会について、「法律上、報告する公的な義務を負う」との判示があります(大阪高裁判決平成19年1月30日)。このため、報告を拒絶した場合、損害賠償の対象となる可能性があります(京都地裁判決平成19年1月24日)。
一方で、漫然と情報を開示してしまうと、その情報の元の開示者から損害賠償の請求をされてしまう可能性もあります(最高裁判決昭和56年4月14日判決。ただし、民事事件の秘密情報に対する弁護士会の照会についての判例ではありません)。