秘密保持契約書の達人

このエントリーをはてなブックマークに追加

秘密保持義務・守秘義務の例外:目次

  1. 秘密情報を開示できる例外を規定する
  2. 法令にもとづく開示ができるようにする
  3. 弁護士会からの照会請求にはケースバイケースで対応する
  4. あくまで「秘密保持義務」の例外であって「秘密情報の例外」ではない

秘密情報を開示できる例外を規定する

秘密保持契約では、秘密情報は原則として開示が禁止されます。

 

ただ、全面的に秘密情報の開示を禁止すると、受領者にとっては、非常に不利になることがあります。

 

このため、秘密情報の例外とは別に、秘密情報に該当する場合であっても、秘密情報を開示できるように、秘密保持義務の例外を規定します。

スポンサード リンク

法令にもとづく開示ができるようにする

一点目は、行政機関が相手の場合です。 秘密保持義務は、開示先によって対象外となります。その開示先とは、主に次のとおりです。
  1. 行政機関
  2. 裁判所
  3. 個人情報の本人
  4. 証券取引所
  5. 投資家
  6. 弁護士会

行政機関に対する開示

ある種の法令により、行政機関から情報の開示が求められることがあります。代表的な行政機関としては、警察庁(警察)、税務署などがありえます。 このような行政機関から秘密情報の開示が求められた場合、受領者が秘密保持契約の秘密保持義務があるからといって、秘密情報の開示を拒絶すると、当然ながら、法令違反ということになります。 しかし、素直に開示してしまうと、秘密保持契約の秘密保持義務違反ともなりかねません。 このため、このような行政機関に対する秘密情報の開示は、秘密保持義務の例外とします。

裁判所に対する開示

行政機関と同様に、裁判所から情報の開示が求められることがあります。こちらも、同様に開示できるようにしてきます。 よく勘違いされがちですが、裁判所は司法機関であって、行政機関ではありません。このため、行政機関に含まれると勘違いして忘れてしまうと、裁判所に対する情報開示が秘密保持義務違反となる可能性があります。

個人情報の本人

個人情報によって識別できる本人は、個人情報保護法第15条により、情報の開示を受ける権利が保証されています。 このため、その本人から開示を求められた場合、個人情報を開示しなければなりません。このため、個人情報についても、本人に対して開示できるようにします。

証券取引所と投資家に対する開示

上場企業が取扱う秘密情報については、場合によっては証券取引所に開示しなければならないことがあります。 証券取引所は純然たる民間企業であり、すでに述べたいずれの行政機関や裁判所とは別です。このため、上場企業が当事者となる秘密保持契約書では、証券取引所に対して一定の情報を開示できるようにします。 また、同様に、金融商品取引法にもとづき、投資家等に対し「公開」しなければならないこともあります。こちらも対応できるようにしておきます。

弁護士会からの照会請求にはケースバイケースで対応する

弁護士会への情報開示請求は一種の「法的義務」

また、まれなケースですが、弁護士会から秘密情報を開示するように求められることがあります(弁護士法第23条の2)。いわゆる「照会請求」です。

 

現行法では、弁護士会からの照会の求めを拒絶したとしても、なんらかの制裁規定があるわけではありません。このため、少なくとも、刑事罰や行政処分を受けるということは考えにくいものと思われます。

 

しかしながら、過去の判例では、弁護士会からの照会について、「法律上、報告する公的な義務を負う」との判示があります(大阪高裁判決平成19年1月30日)。

 

このため、報告を拒絶した場合、損害賠償の対象となる可能性があります(京都地裁判決平成19年1月24日)。

 

つまり、刑事罰や行政処分の対象とはならないまでも、民事上の損害賠償の対象となる可能性がある、ということです。このため、上記の官公署の対応と同様に、秘密保持義務の対象外とするべきです。

 

漫然と開示すると開示者からの損害賠償請求もありえる

ただし、どのような照会であっても漫然と開示してしまうと、逆にその情報の元の開示者から損害賠償の請求をされてしまう可能性もあります(最高裁判決昭和56年4月14日判決。ただし、民事事件の秘密情報に対する弁護士会の照会についての判例ではありません)。

 

特に、弁護士会から照会を求められた秘密情報が裁判で証拠として提出された場合、日本の裁判は原則として公開されますので、秘密情報が公開されてしまうことになりかねません。

 

このため、弁護士会に対する開示に当たっては、なるべく開示者と打ち合わせをおこなったうえで、できれば開示者から承諾を得た範囲の情報を開示するべきです。

あくまで「秘密保持義務」の例外であって「秘密情報の例外」ではない

なお、一般的な秘密保持契約書では、これらの者に対する開示について、「秘密情報の例外」として規定していることが多く見受けられます。これは、非常に大きな誤りです。

 

これらの者から開示の請求を受けた情報を「秘密情報の例外」としてしまった場合、請求があった後、理屈のうえではその情報は秘密情報ではなくなります。

 

そうすると、受領者がその情報を公開したり目的外使用をしたりしたとしても、秘密保持契約に違反したことにはなりません。

 

極端な例ではありますが、理屈のうえでは、例えば、税務署が税務調査をおこなった際に、契約関係を説明するために契約情報や技術情報を開示してしまった場合、そのような情報は一切秘密情報に該当しなくなる可能性もあります。

 

このため、開示者としては、これらの者に対する開示については、必ず「秘密保持義務の例外」とし、開示先を限定するようにしてください。

スポンサード リンク

このエントリーをはてなブックマークに追加
お問い合わせ