秘密保持契約書の達人

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秘密保持義務・守秘義務:目次

  1. 秘密保持契約における最重要条項
  2. 営業秘密の要件である「非公知性」を充たすツール
  3. 秘密保持義務・守秘義務はあくまで原則
  4. 開示者としてはなるべく開示する第三者を特定する

秘密保持契約における最重要条項

秘密保持義務・守秘義務は、秘密保持契約を構成する最も重要な要素のひとつです。当然ながら、秘密保持義務・守秘義務がなければ、秘密保持契約は成立しません。

 

秘密保持義務・守秘義務は、開示者が受領者に対して、情報漏洩を直接的に制限する条項です。このため、情報漏洩があった場合は、開示者が直接的に受領者の契約違反(債務不履行)を追求できる根拠となります。

 

秘密保持義務は「直接活用する」タイプの義務ではない

ただ、実際に情報漏洩があった場合、開示者としては、受領者に対して、秘密保持義務・守秘義務違反を直接的な根拠として何らかの責任を追求することは、あまりありません。

 

まずは、情報漏洩に関連する法律、特に不正競争防止法違反を根拠として、受領者に対する責任を追求します(理由については後述します)。

 

このため、開示者としては、秘密保持義務・守秘義務は、受領者に法的な義務を課すという点よりも、特に不正競争防止法による保護を視野にいれて、秘密情報が「非公知」である状態を創出する、という点で重要となります。

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営業秘密の要件である「非公知性」を充たすツール

不正競争防止法>秘密保持契約・秘密保持義務

秘密保持契約書による秘密保持義務・守秘義務は、あくまで企業間の約束である契約による制限でしかありません。このため、どうしても法的な規制・強制力や実際の契約の実行性の確保が弱い、というデメリットがあります。

 

これに対し、営業秘密を保護する不正競争防止法は法律ですので、規制・強制力が秘密保持契約に比べて強い、というメリットがあります。具体的には、刑事罰や民事的な救済措置が規定されています。
我が国の知的財産法の体系的整理
経済産業省知的財産政策室;『営業秘密と不正競争防止法』(平成25年8月)より引用)

 

秘密保持義務=非公知性・新規性を充たすツール

このため、開示者としては、秘密保持契約の秘密保持義務・守秘義務による情報漏洩の防止よりは、どちらかというと、不正競争防止法による防止のほうが、より適切な方法であるといえます。

 

以上の点から、秘密保持契約の秘密保持義務・守秘義務は、秘密情報が営業秘密とみなされるための条件である、「非公知性」を充たすたツールとして考えるべきです。

 

なお、秘密保持義務・守秘義務は、特許の要件のひとつである「発明の新規性」を充たすためのものでもあります(これは考案や意匠にもいえることです)。このため、共同研究開発契約書などでも、極めて重要な条項です。
参考:営業秘密の要件3(非公知性)特許の出願(新規性喪失の例外の利用)

秘密保持義務・守秘義務はあくまで原則

秘密保持義務・守秘義務は重要な条項ではありますが、すべての秘密情報について、第三者に対する開示を全面的に禁止するというのは、実務上、あまり現実的とはいえません。これは、特に受領者にとって問題となります。

 

このため、一般的な秘密保持契約書では、様々な事態を想定して、例外的に秘密保持義務・守秘義務が適用されない場合も規定します。

 

特に、官公署・裁判所への開示、個人情報によって識別される本人への開示、金融商品取引法などの法令にもとづく公開、民間企業である証券取引所に対する開示、弁護士会からの照会請求などの特定の第三者に対する法的責任が伴う開示が問題となります。

 

参考:非常に重要な秘密情報

 

また、厳密にいえば、受領者が法人の秘密保持契約の場合、契約の当事者は法人であり、役員や従業員は第三者です。このため、これらの役職員に対する開示も問題となることがあります。

 

このほか、受領者が大学である場合における学生・ポスドクや、業務委託先、外部専門家など、秘密情報に触れる機会が多いにもかかわらず、直接の秘密保持義務・守秘義務を負うことがない第三者に対する開示も、問題となります。

 

参考:使用者の限定とその管理監督

開示者としてはなるべく開示する第三者を特定する

他方、開示者としては、あまり広範囲の第三者に情報が開示されることは、情報漏洩のリスクが拡大することになります。このため、いかに秘密保持義務・守秘義務の例外となる当事者を限定するかが重要となります。

 

この点について、上記の例のうち、官公署・裁判所、個人情報によって識別される本人、投資家等(金融商品取引法にもとづく場合)、弁護士会などについては、契約を結ぶ段階では当事者の特定は難しいといえます。

 

具体的に情報を開示する個人名をリストアップすることも考える

他方、この他の第三者、具体的には、受領者(場合によっては親会社・子会社などを含む)の役員・従業員、大学の学生・ポスドク、業務委託先(その役員・従量員を含む)、外部専門家などは、ある程度限定することができます。

 

こような第三者については、厳密に氏名(名称)・住所(所在地)などをリストアップして秘密保持契約書に記載することにより、受領者が情報を開示することができる第三者を特定することがあります。これは、特に重要な情報が開示されるような秘密保持契約の場合におこなわれます。

 

例えば、共同研究開発契約やM&Aの契約のように、非常に秘密性が高い秘密情報が開示され、かつ、あらかじめ特定の担当者が決まっている場合が該当します。

 

このように開示し対象者をリストアップすることにより、必要最低限の範囲の第三者に対してのみ、秘密保持義務・守秘義務の例外として秘密情報が開示されるようにすることで、開示者としては、不必要に秘密情報が拡散しないようにします。

 

参考:共同研究開発契約書の秘密保持義務M&A契約書の秘密保持義務

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