秘密保持契約書の達人

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営業秘密の要件3(非公知性):目次

  1. 「公然と知られていない」こと
  2. リバースエンジニアリングと非公知性
  3. 秘密保持義務がある=非公知性を充たす
  4. 秘密保持契約による「非公知性」の創出

「公然と知られていない」こと

非公知性とは、その情報が「保有者の管理下以外では一般的に入手することができない状態にあること」です(経済産業省;『逐条解説 不正競争防止法(平成23・24年改正版)』2012年12月5日)。

 

このため、刊行物、学会発表、インターネットなどを通じて、誰でも容易に入手できるような情報については、非公知性が認められません。これは、特許の要件でもある「発明の新規性」とほとんど同義といえます。

 

人数の多い少ないは関係ない

なお、非公知性が認められるかどうかは、その情報を知っている人数が多いかどうかは問題となりません。

 

たとえ多くの人が知っている情報であっても、秘密保持契約書などにより秘密保持義務が課されている情報であれば、非公知性は認められます。

 

逆に、少数であっても、特に秘密保持契約書などで秘密保持義務が課されていない情報であれば、非公知性が認められない可能性があります。

 

もっとも、ある情報があまりにも多くの人に知られているということは、場合によっては、「秘密管理性」を否定される可能性もあります。

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リバースエンジニアリングと非公知性

また、「知られている」、ということには、情報そのものが知られているという状態だけではなく、製品として具現化(=発明として実施)した情報が知られている状態も含みます。

 

このため、リバースエンジニアリングによって容易に知ることができるような情報についても、非公知性が認められません。

 

容易に知ることができないものは「非公知」扱い

ただし、リバースエンジニアリングについては、次のような判例があります。

大阪地裁判決平成15年2月27日

…情報を得ようとすれば、専門家により、多額の費用をかけ、長期間にわたって分析することが必要であるものと推認される。 したがって、(途中省略)秘密保持契約なしに販売されたことによって公知になったとはいえない。

このため、製品として具現化した情報であっても、リバースエンジニアリングが容易でない製品については、非公知性が認められることもあります。

 

そういう意味では、営業秘密として保護している情報を製品化のために使用する場合は、リバースエンジニアリングへの対策が重要となります。

秘密保持義務がある=非公知性を充たす

非公知性が認められるかどうかは、情報の記録媒体の状態(=外部からのアクセスができない、など)も重要ですが、それ以外にも、情報を記憶する人間の状態も重要となります。

 

具体的には、情報を開示された受領者に秘密保持義務が課されているかどうかによって、非公知性が認められるかどうかが判断されます。

 

この点について、必ずしも情報を開示した相手方と秘密保持契約書の取り交わしによる秘密保持義務が必要というわけではありません。

 

会社の従業員への情報開示は「非公知」だが「秘密管理性」が問題

例えば、会社とその従業員との間には、一般的に、労働契約・雇用契約に付随する義務として、信義誠実の原則(いわゆる「信義則」。民法第1条第2項参照)により、当然に会社の情報を外部に漏洩させない秘密保持義務があるとされています。

 

参考:労働者の秘密保持義務社員・従業員・パート・アルバイトの監督義務

 

このため、会社が従業員から特に秘密保持誓約書を徴収していなかったり、労働契約書・雇用契約書・就業規則・各種規程に秘密保持義務が規定されていなかったりした場合であっても、会社内の情報が従業員に知られていることをもって、非公知性が認められない、ということはありません。

 

ただし、このような場合は、秘密管理性の要件が否定される可能性が高いといえます。

秘密保持契約による「非公知性」の創出

以上のように、いかに非公知性を充たすためとはいえ、法律上当然に秘密保持義務を負う受領者とまで、秘密保持契約書の取り交わしが求められるわけではありません。

 

ただ、法律上、当然に秘密保持義務を負う者は、決して多くありません。特に、一般的な事業者は、原則として、当然に秘密保持義務を負うことはありません。

 

参考:企業間取引と秘密保持契約

 

秘密保持契約書の取り交わし=非公知

このような事情から、秘密情報を営業秘密として保護するためには、秘密保持契約書を取り交わし、受領者に対して秘密保持義務を課すことが重要となります。

 

秘密保持契約書を取り交わすことにより、「非公知性」を創出することができます。

 

なお、法律上、当然に秘密保持義務を負う者(例:弁護士、公認会計士、労働者派遣事業者など)が相手の場合であっても、「非公知性」を充たすためだけでなく、「秘密管理性」を充たすためにも、秘密保持契約書を取り交わすべきです。

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