秘密保持契約書の達人

このエントリーをはてなブックマークに追加

不正競争防止法と民法の違い:目次

  1. 民法にもとづく秘密情報の保護
  2. 民法による秘密情報の保護の限界
  3. 不正競争防止法による強力な保護

民法にもとづく秘密情報の保護

不正競争防止法では、不正競争によって企業の権利が侵害された場合における民事的な救済手段が規定されています。この民事的救済手段は非常に強力なものですが、それだけに、厳格な要件を充たすことが求められます。

 

民法にもとづく2種類の救済手段=不法行為・債務不履行(契約違反)

一般的に、企業活動においてなんらかの損害を受けた場合は、その損害を受けた企業は、不法行為として、民法第709条にもとづく損害賠償請求をおこなうことができます。

 

民法第709条(不法行為による損害賠償)

故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 

また、契約違反により損害を受けた場合は、債務不履行として、民法第415条にもとづく損害賠償請求をおこなうことができます。

 

民法第415条(債務不履行による損害賠償)

債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。

これらの点は、秘密保持契約でも同様です。秘密情報の漏洩や不正使用があった場合、不法行為や債務不履行を根拠に、受領者に対して損害賠償の請求ができます。

スポンサード リンク

民法による秘密情報の保護の限界

このように、理屈のうえではこれらの民法にもとづく損害賠償請求ができます。ただ、実際には、そう簡単に認められるものではありません。

 

特に、秘密保持契約の実務においては、損害額の算定が非常に難しい、という実態があります。この点から、開示者としては、満足を得るだけの損害額が認定されない可能性も考慮する必要があります。

 

参考:損害額の明記損害賠償の請求

 

また、民法の救済の原則は金銭による損害賠償ですが、不正競争による損害があった場合、金銭による損害賠償では、必ずしも十分に賠償されるとは限りません。

 

さらに、民法にもとづく裁判の場合、その内容は公開されますので、もはや秘密情報を秘匿して保護することができなくなります。

 

これらの点から、民法にもとづく秘密情報の保護には限界があり、実務上は、民法による救済を受けることは、事実上非常に困難であるといえます。

不正競争防止法による強力な保護

これに対し、不正競争防止法では、民法による保護よりもより強力な救済手段が規定されています。

 

まず、損害額の算定については、不正競争によって営業上の利益を侵害された企業を保護するために、民法にもとづく損害賠償の立証よりも、簡単に損害賠償の立証ができるような内容となっています(不正競争防止法第5条)。

 

参考:不正競争防止法第5条(損害の額の推定等)

 

また、不正競争防止法では、金銭賠償以外にも、差止請求権や信用回復の請求権などが認められていますので、金銭による損害賠償だけでは回復できない損害にも対応できます(不正競争防止法第3条、同第14条)。

不正競争防止法第3条(差止請求権)

1 不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、その営業上の利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。

2 不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物(侵害の行為により生じた物を含む。第5条第1項において同じ。)の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の停止又は予防に必要な行為を請求することができる。

不正競争防止法第14条(信用回復の措置)

故意又は過失により不正競争を行って他人の営業上の信用を害した者に対しては、裁判所は、その営業上の信用を害された者の請求により、損害の賠償に代え、又は損害の賠償とともに、その者の営業上の信用を回復するのに必要な措置を命ずることができる。

 

さらに、不正競争防止法にもとづく裁判の場合は、一部の内容について非公開とすることができるため、秘密情報を秘匿したまま裁判を進めることもできます(不正競争防止法第7条、同第10条など)。

 

参考:不正競争防止法第7条(書類の提出等)不正競争防止法第10条(秘密保持命令)

 

秘密保持契約書は不正競争防止法の保護を受けるために利用する

以上のように、秘密情報を保護する法律としては、不正競争防止法は、民法よりも非常に多くのメリットがあります。

 

この点から、秘密保持契約の実務では、不正競争防止法の保護を受けることを最終的な目的として、秘密保持契約を結びます。

スポンサード リンク

このエントリーをはてなブックマークに追加
お問い合わせ