営業秘密とは:目次
営業秘密とは
営業秘密とは、不正競争防止法により保護される情報のことで、次の内容のものです(不正競争防止法第2条第6項)。
不正競争防止法第2条(定義)
6 この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。
手続き不要で強力な保護を受けられる
不正競争防止法は、営業秘密である秘密情報を非常に強力に保護してくれる法律です。
しかも、特許などとは違って、特許庁や他の官公署で手続きをする必要がありません。
ただ、手続きを必要としないにもかかわらず強力な法的保護を受けることができる制度だけに、むやみやたらに情報を保護してくれるわけではありません。
秘密情報が営業秘密として不正競争防止法による保護を受けるためには、非常に厳格な要件を充たさなければなりません。
営業秘密はすべての企業が保有している
経済産業省の調査によると、アンケートの回答企業のすべての企業が営業秘密を保有している、と回答しています。
F6.貴社には、営業秘密(顧客名簿、固有の技術・業務ノウハウ、固有の生産技術等の、厳に秘匿している業務価値の高い情報)はありますか。
出典:経済産業省『営業秘密保護制度に関する調査研究報告書(別冊)「営業秘密管理に関するアンケート」調査結果』11ページ
もっとも、「顧客名簿」とあるとおり、ある意味ではどの企業でも保有しているのが当たり前の質問項目であるともいえます。
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営業秘密の3要件
営業秘密として認められるためには、具体的には、次の3つの要件を充たす必要があります(不正競争防止法第2条第6項)。
- 「秘密として管理されている」こと(=「秘密管理性」)
- 「生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報」であること(=「有用性」)
- 「公然と知られていない」こと(=「非公知性」)
秘密保持契約は、これらの要件のうち、秘密管理性と非公知性を充たすために非常に重要な役割を果たします。
このため、不正競争防止法による保護を受けるためには、秘密保持契約書の作成は必須であるといえます。
なお、個々の要件の詳細については、それぞれ、「営業秘密の要件1(秘密管理性)」、「営業秘密の要件2(有用性)」「営業秘密の要件3(非公知性)」をご覧ください。
残念ながら約半数の企業が知らない
経済産業省の調査によると、営業秘密の3要件について、大企業(従業員300人以上または資本金3億円以上、全体の7割が製造業)の約半数が知らない、と回答しています。
問1.不正競争防止法で措置が可能なこと、営業秘密の3要件をご存じですか。
出典:経済産業省『営業秘密保護制度に関する調査研究報告書(別冊)「営業秘密管理に関するアンケート」調査結果』14ページ
この点について、同調査結果では、「大企業であっても、不正競争防止法の措置も営業秘密の3要件も知らない企業が約2割存在している。営業秘密の3要件を理解している企業は約半分に過ぎない。」という分析がなされています。
非常に広い範囲の情報が対象となる
技術情報も保護対象
「営業秘密」という表現は、営業(=商品やサービスの販売活動)に関する情報のみを保護するかのような印象を与える表現です。
このため、営業秘密の制度は、このような販売活動に関する情報(例:顧客リスト・販売方法)のみを保護するものであり、技術情報などは保護の対象外であるかのように誤解されることがあります。
しかし、不正競争防止法では、「生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報」(不正競争防止法第2条第6項)とあるように、特に情報の種類を限定していません。このため、営業秘密の対象となる情報は、極めて範囲が広いといえます。
具体的には、顧客情報、販売マニュアル、技術情報、設計図、実験データ(失敗したデータ=ネガティブインフォメーションを含む)、研究報告書、製造方法(製造工程・生産ライン)、プログラムなどが考えられます。
この点は、特定の情報のみを保護の対象としている他の知的財産権とは大きく異なる点です。
実際に企業が保有している営業秘密
経済産業省の調査によると、大企業(従業員300人以上または資本金3億円以上、全体の7割が製造業)が次のような情報を営業秘密として管理している、と回答しています。
問3.どのような情報を現在、営業秘密として管理していますか。
出典:経済産業省『営業秘密保護制度に関する調査研究報告書(別冊)「営業秘密管理に関するアンケート」調査結果』16ページ
情報を秘匿したまま保護することができる
また、営業秘密の特徴としては、情報を秘匿したまま保護することができる、という点があります。
特許権等は公開される
一般的な知的財産権(特許権など)は、保護を受けることができる代わりに、公開することが前提となっています(著作権や秘密意匠制度での意匠権を除く)。
これは、発明を特許権として保護する一方で、公開することにより、広く発明の利用を図ることを目的としているからです。
このため、原則として、特許権などでは、情報を秘匿したままで保護することはできません。
営業秘密と著作権は秘匿できる
これに対し、不正競争防止法にもとづく営業秘密と著作権法にもとづく著作権は、公開することが前提となっていません(むしろ営業秘密は秘匿することが前提となっています)。
このため、営業秘密と著作権は、情報を秘匿したままで保護することができる、数少ない知的財産権です。
このように、不正競争防止法による営業秘密の保護は、あらゆる企業があらゆる情報を秘匿して保護するための、事実上唯一の方法であるといえます。