秘密保持契約書の達人

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労働者の秘密保持義務:目次

  1. 労働者(従業員)が守るべき秘密保持義務
  2. 労働者からの情報漏洩のリスクは高くなっている
  3. 顧客情報の持ち出しは違法行為、場合によっては「犯罪」
  4. 退職後まで視野に入れて秘密保持誓約書を徴収する

労働者(従業員)が守るべき秘密保持義務

労働者は当然に秘密保持義務が課される

一般的に、労働者(従業員)は、会社の情報を外部に漏らしてはならないとされています。常識的に考えればそのとおりと思われがちですが、意外にも裁判で争われ、長い間判例が積み重ねられた結果、確立した理論です。

 

注目すべき点としては、特に労働契約書・雇用契約書、あるいは秘密保持誓約書などに規定されてないかったとしても、そのように解釈されます。さらに、就業規則などで規定されてない場合も同様です(詳しくは後述)。

 

それでも情報漏洩はおこるもの

ただ、理論上はそのとおりですが、だからといって、何もしなくても労働者(従業員)からの情報漏洩がまったく無いかといえば、そのようなことはあり得ません。

 

一般的な労働者(従業員)の方々は、上記のような判例や法理論はおそらくご存じないでしょうから、そもそもご自分に秘密保持義務が当然に課されている、などとは考えていない可能性が高いといえます。

 

その証拠に、近年、SNSを利用した職場の情報漏えいが相次いでいます。また、技術情報については、人材を通じて流出することを前提に対策を講じる必要があります。
参考:経済産業省『人材を通じた技術流出に関する調査研究報告書』(平成25年3月)

 

このため、情報漏洩を抑止するために、(他の対策と併せて)いかに秘密保持契約を活用するかがポイントとなります。

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労働者からの情報漏洩のリスクは高くなっている

情報漏洩は現実におこるリスク

労使間の労働契約では、使用者(企業)は、労働者に対して、極めて重要な情報を開示します。逆に、労働者にとっては、使用者から情報を開示してもらわないことには、仕事になりません。

 

このように、労働者が使用者の重要な情報を保持する以上、労働者による第三者に対する情報の漏洩や開示の問題は、使用者の側にとっては、常に意識しておかなければならないリスクです。実際問題として、情報漏洩は、労働者や退職者によるものが非常に多いです。

 

すでに述べたとおり、スマートフォンやソーシャルメディアなどの発達により、秘密情報の取得や公開など、情報漏洩のリスクは従来よりも高くなっています。

 

このため、使用者としては、労働者・退職者との秘密保持契約の締結、具体的な手続きとしては秘密保持契約書の取り交わしや秘密保持誓約書の徴収などは、非常に重要です。

顧客情報の持ち出しは違法行為、場合によっては「犯罪」

なお、しばしば、勤務先の顧客情報や営業企画を持ち出して、競合他社に転職したり、競合する事業で独立したりする労働者がいます。

 

実は、これらの行為は、不正競争防止法違反となる可能性があります。この場合、民事上の損害賠償の対象となり、また、場合によっては刑事罰の対象となることもあります。

 

参考:営業秘密侵害罪の類型(出典:経済産業省『営業秘密の不正な持ち出しは犯罪です!それ大丈夫?(2013年3月)』)
営業秘密侵害罪類型その1
営業秘密侵害罪類型その2

 

しかし、管理人の経験上、このような顧客情報や営業企画の持ち出しが違法行為に該当するという認識は、ほとんど広がっていません。このため、特に企業側としては、労働者・従業員・社員に対する教育・指導が重要となります。

退職後まで視野に入れて秘密保持誓約書を徴収する

就業中は「当然に」課される秘密保持義務

すでに述べたとおり、一般的に、労働者(従業員)は、使用者(企業)の秘密情報について、秘密保持義務を負っているとされています。これは、労働契約(雇用契約)にもとづく信義誠実の原則(いわゆる「信義則」。民法第1条第2項参照)にもとづくとされます。

 

このため、たとえ労働契約書や就業規則などの書面に秘密保持条項の記載がない場合や特に秘密保持契約の締結、秘密保持契約書の取り交わし、秘密保持誓約書の徴収などがなかった場合であっても、労働者は、就業中は、当然に秘密保持義務を負います。

 

しかしながら、使用者からの情報の漏洩を防止するには、信義則にもとづく労働契約上の秘密保持義務だけでは不十分です。

 

退職後は「当然には」課されない秘密保持義務

というのも、労働契約上の秘密保持義務は、一般的には、あくまで就業中だけのものとされます。このため、労働契約終了後、つまり退職後は、何らかの特約がない限り、労働者は、秘密保持義務を負わないとされています。

 

また、就業中や退職後の労働者に対して一定の秘密保持義務を課さないと、秘密情報を管理していないとみなされ、使用者は、不正競争防止法による保護を受けることができない可能性もあります。
参考:営業秘密の要件1(秘密管理性)

 

このような事情から、使用者は、労働者に対して、なんらかの書面による秘密保持義務(秘密保持契約書の取り交わし、秘密保持誓約書の徴収など)を課すべきです。

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