秘密保持契約書の達人

このエントリーをはてなブックマークに追加

不正競争防止法による情報の保護:目次

  1. 秘密情報は保護されにくい
  2. 情報を保護する法律
  3. 情報を秘匿して保護する制度
  4. 秘密保持契約書による情報保護の限界
  5. 著作権法による情報保護の限界
  6. 不正競争防止法による秘密情報の保護

秘密情報は保護されにくい

情報を保護する法律はいくつか存在します。そのほとんどが、条件付きで情報を保護することになっています。つまり、ほとんどの情報は、無条件で保護されるものではありません。

 

特に、秘密にして保護する情報は、限られた法律によってしか保護されません。具体的には、不正競争防止法と著作権法です。

 

他方、秘密保持契約は、あくまで契約=当事者間の約束に過ぎません。つまり、秘密保持契約は、法律に比べると法的拘束力の点で不十分であるということです。

 

このため、実務上は、秘密保持契約書を使用することで、秘密保持契約による保護を図るのではなく、不正競争防止法の適用による情報の保護を図ります(詳細は後述)。

スポンサード リンク

情報を保護する法律

ひとくちに情報といってもその種類は、多種多様です。また、情報を保護する法律もまた、多種多様です。その中でも、主な法律は、次のとおりです。

  1. 個人情報を保護する個人情報保護法
  2. 営業秘密(ノウハウ・トレードシークレット)を保護する不正競争防止法
  3. 著作物を保護する著作権法
  4. 発明を保護する特許法
  5. 考案を保護する実用新案法
  6. 工業デザインを保護する意匠法
  7. ブランド(商標)を保護する商標法
  8. 半導体の回路配置を保護する半導体回路配置保護法
  9. 種苗の品種を保護する種苗法

これらの法律は、対象とする法律や、法的保護の程度が大きく異なりますので、情報の種類によって、使い分ける必要があります。

情報を秘匿して保護する制度

情報は公開と引き換えに保護される

これらの法律のうち、企業の情報を秘密のままで保護できる法律は、不正競争防止法と著作権法のみです。

 

この二つの法律と個人情報保護法以外の法律は、ある意味では、情報を公開することと引き換えに情報を保護する内容となっています(ただし、秘密意匠制度がある意匠法の一部内容を除く)。

 

つまり、法律上、情報を秘匿した上で保護する方法は、不正競争防止法、著作権法の適用、秘密保持契約書の活用のいずれか、またはこれらのうちの複数の方法となります。

 

この点について、秘密保持契約は当事者間の契約であり、どうしても法的拘束力が十分であるとはいえません。

情報の保護は不正競争防止法を中心に考える

このため、実際の実務上は、秘密保持契約書の活用に加えて、不正競争防止法の適用を中心に秘密情報を保護することを狙います。

 

また、著作権の要件を充たす秘密情報(例:社内で使用するシステム等のプログラムなど)については、これらに加えて、著作権法の適用も視野に入れます。

 

なお、個人情報は、個人情報の本人=オーナーを保護するための法律であり、個人情報を管理する企業を保護する法律ではありません。

秘密保持契約書による情報保護の限界

実務では秘密保持契約を直接には使わない

すでに述べたとおり、秘匿した情報(=秘密情報)を保護するには、不正競争防止法、著作権法、秘密保持契約書の活用のいずれかの方法によることになります。

 

このうち、最も手軽な方法は秘密保持契約書の活用です。秘密保持契約書は、比較的柔軟に内容を決めることができる、低コストで用意することができる、といってメリットがあります。

 

ただ、秘密保持契約は、あくまで当事者間の契約=約束に過ぎません。これは、法律的な裏付けがないことや法制度によって担保されたものではないことを意味します。このため、法的拘束力や強制力は、法律に比べて劣るといわざるを得ません。

 

我が国の知的財産法の体系的整理

経済産業省知的財産政策室;『営業秘密と不正競争防止法』(平成25年8月)より引用)

 

もっとも、だからといってまったく意味がないわけではありませんし、いずれにしても、不正競争防止法による保護を受けるためには、秘密保持契約書を取り交わす必要はあります(詳細は後述)。

著作権法による情報保護の限界

著作権法は「表現」を保護する法律であり「内容=アイデア」を保護するものではない

一方で、著作権法は、「表現」を保護する法律です。

 

秘密情報が音楽や映像などのコンテンツであれば直接的に保護されますが、これらのほとんどは公開されることが目的として作成されますので、そもそも秘密情報として保護する意味がありません。

 

また、秘密情報が顧客リスト、ノウハウ、技術情報などの場合は、これらが外部に流出したり不正使用されたとしても、表現そのもの(=著作権)の侵害に該当しなければ、少なくとも著作権法では保護されません。

 

実務上はプログラム・データベースの保護が中心

著作権法上、秘匿したうえで保護することが想定される情報は、具体的には、非公開が前提のプログラムやデータベースなどが該当します。これらは、「表現」=プログラム著作権やデータベース著作権として認められる可能性があります。

 

また、一部のマニュアルなどについても、「表現」については言語や写真の著作物として保護される可能性もあります。同様に、会員限定の動画なども映像の著作物として保護される可能性もあります。

 

ただし、これらはあくまで「表現」が保護されるのであって、その内容については、著作権としては保護されません。

不正競争防止法による秘密情報の保護

これらに対し、不正競争防止法の場合は、1.秘密管理性、2.有用性、3.非公知性―の3つの要件を充たした情報=営業秘密(不正競争防止法第2条第6項)を保護する法律です。これらの要件を充たしていれば、営業秘密として、あらゆる情報が保護の対象となります。

 

具体的には、すでに述べた顧客リスト、ノウハウ、技術情報などが該当します。また、失敗した実験結果などの、いわゆる「ネガティブインフォメーション」ですら保護の対象となります。

 

このため、秘密情報の保護の手段としては、通常は、不正競争防止法の適用を目標とします。秘密保持契約書は、あくまで、秘密情報が上記の要件のうちの、1.秘密管理性と2.非公知性を充たすツールとして使用します。

 

また、秘密保持契約書は、万が一、不正競争防止法によって秘密情報が保護されなかった場合に、情報を保護する最後の手段としての機能も果たします。

 

参考:営業秘密とは営業秘密と著作権の違い

スポンサード リンク

このエントリーをはてなブックマークに追加
お問い合わせ