秘密保持契約書の達人

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企業間取引と秘密保持契約:目次

  1. 情報開示が「当たり前」の企業間契約
  2. 原則として企業間の契約には秘密保持義務がない
  3. 企業間取引では秘密保持契約が非常に重要

情報開示が「当たり前」の企業間契約

企業間の契約では、契約交渉の際、または契約の履行=事業活動に伴って、重要な情報が開示されることがあります。特に、高度に情報化が進んだ現代の事業では、情報を扱わない方が珍しいといえます。

 

情報の共有はここ5年〜10年で増加傾向

経済産業省の調査によると、大企業(従業員300人以上または資本金3億円以上、全体の7割が製造業)が、ここ5年〜10年の間に営業秘密を共有することが増えている、と回答しています。

問8.業務委託や下請、共同開発等によって、自社の営業秘密を他社と共有したり、他社の営業秘密を自社で管理するといった事例は、ここ5年〜10年の間に増加していますか。
営業秘密を他社と共有する機会について

出典:経済産業省『営業秘密保護制度に関する調査研究報告書(別冊)「営業秘密管理に関するアンケート」調査結果』21ページ

 

他方、情報通信技術の発達により、情報の取扱いが簡単になった反面、結果として情報漏洩のリスクも高くなりました。特にインターネットの発達によって、今や世界中から不正アクセスによる情報の不正取得が可能となっています。

 

このような事情から、仮に自社で情報管理を徹底していたとしても、取引先から情報が漏洩することも想定しなければなりません。

 

情報漏洩は大きなリスク

一度情報が外部に漏洩してしまった場合、情報を開示した当事者にとって、大きな損害の原因となることがあります。これに加えて、情報漏洩は、機会損失、利益の逸失など、本来得ることができたはずの利益を失う原因にもなります。

 

特に、特許を取得する予定の技術情報(=発明)が外部に漏洩した場合、いわゆる「発明の新規性」が喪失してしまい、特許が取得できなくなる可能性があります。
参考:技術情報漏洩のリスク

 

不正使用も想定する

また、情報が外部に漏洩しなかった場合であっても、情報の開示を受けた当事者が、不正使用などの目的外の使用をおこなうこともあります。これは、開示された情報が事業上のアイデアや技術情報、顧客情報であった場合には、特に問題となります。

 

このように、現代の企業間取引では、情報の利便性と不正使用・漏洩などののリスクの双方を視野に入れたうえで、情報を取扱う必要があります。

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原則として企業間の契約には秘密保持義務がない

現行の民法や商法では、原則として、契約のルールとしての秘密保持義務は規定されていません。

 

契約上の義務は、必ず法律または契約による根拠が必要です。契約に関する法律としては、代表的には、民法や商法があります。民法や商法は、特に当事者間に契約などの合意がない場合に適用される法律です。

 

民法や商法に秘密保持義務が規定されていないということは、特に何も決めていない状態、いわゆる「デフォルト」の状態では、契約当事者には秘密保持義務は課されない、ということです。

 

これは、民法や商法が制定された当時(明治時代)では、情報に対する考え方や異なっていたため、秘密保持義務はそれほど重視されていなかったから、と推察されます。

 

また、現代でも、契約上の秘密保持義務は(内容にもよりますが)非常に厳しい義務であり、誰もが当然に負うべき義務ではありません。

 

このような事情から、法律上の義務としては、契約の当事者に秘密保持義務が課されることはありません。

 

秘密保持義務なしには情報漏洩の責任は問えない

ということは、取引先からなんらかの情報が漏洩したとしても、特に秘密保持義務を課していなければ、その責任を追求することは非常に難しいということです(後述のとおり、不可能ではありません)。

 

例外として、他の法律で特別に秘密保持義務が規定されている場合は、企業間の取引であっても、当然に秘密保持義務が課されることがあります。例えば、労働者派遣契約などが該当します。
参考:派遣労働者の秘密保持義務労働者派遣契約書の秘密保持義務

 

ただ、このような秘密保持義務は、特に許認可が必要な事業者や、国家資格の有資格者に課されることがほとんどですので、それほど多いものではありません。
参考:秘密保持義務を負う職業

企業間取引では秘密保持契約が非常に重要

これに対し、法律ではなく、契約で情報漏洩を防止する秘密保持義務を課しておけば、少なくとも契約上の責任を追求することができます。

 

また、秘密保持義務を課すことにより、場合によっては不正競争防止法などの法律によって、非常に協力に保護を受けることができるようになります。

 

通常、秘密保持契約書は、それ単体での利用よりも、むしろ不正競争防止法による保護を受けるために利用されます。

 

このため、情報を取扱う企業間の取引では、法的に情報漏洩を防止するために、秘密保持契約書や秘密保持義務が重要となります。
参考:不正競争防止法と営業秘密の保護営業秘密とは

 

秘密保持義務がなくても例外的に保護されることもある

なお、秘密保持義務がないからといって、責任の追求がまったく不可能というわけではありません。

 

情報漏洩や情報の不正使用があった場合は、民法上の不法行為、著作権法違反、プライバシー権、肖像権、パブリシティ権などの人格権の侵害など、秘密保持義務違反や不正競争防止法違反以外の理由を根拠に、責任を追求することができる場合もあります。

 

このため、逆に取引先から開示を受けた情報は、秘密保持義務の有無に関係なく、注意して管理する必要があります。

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