派遣労働者の秘密保持義務:目次
派遣会社の秘密保持義務
派遣会社は派遣先に対して秘密保持義務を負う
派遣会社は、労働者派遣業法第24条の4により、業務上取り扱ったことについて知り得た秘密について、秘密保持義務を負います。
労働者派遣法第24条の4(秘密を守る義務)
派遣元事業主及びその代理人、使用人その他の従業者は、正当な理由がある場合でなければ、その業務上取り扱ったことについて知り得た秘密を他に漏らしてはならない。派遣元事業主及びその代理人、使用人その他の従業者でなくなった後においても、同様とする。
労働者派遣法の秘密保持義務は、あくまで派遣会社を規制する公法上の義務とされています。これは、派遣会社と派遣先との民事上(私法上)の直接的な秘密保持義務を規定しているわけではありません。
もっとも、この労働者派遣業法の規定および民法上の信義誠実の原則(いわゆる「信義則」。民法第1条第2項参照)により、派遣会社は、派遣先に対して、秘密保持義務を負うものと思われます。
このため、受領者が派遣労働者を使用している場合であっても、労働者派遣法が、派遣会社や派遣労働者による情報漏洩の最低限の予防になるといえます。
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労働者派遣契約書に秘密保持義務を規定する
労働者派遣法には労働者派遣契約書に秘密保持義務を定める義務がない
しかしながら、秘密情報の開示者=派遣先が派遣労働者を使用する場合、開示者としては、秘密情報の受領者である派遣会社=派遣元に対して、労働者派遣契約書において、秘密保持義務を記載するように求めるべきです。
というのも、労働者派遣契約について規定している労働者派遣法第26条や関連する法令では、労働者派遣契約に秘密保持義務を規定する義務が規定されていません。
このため、派遣会社・派遣元によっては、労働者派遣契約書に秘密保持義務を規定しない可能性もあります。
開示者・派遣先がこのような派遣会社・派遣元を利用する場合、派遣会社・派遣元や派遣労働者を通じて、開示者の秘密情報が漏洩してしまう可能性もあります。
このような事態を防ぐためにも、開示者・派遣先としては、受領者・派遣元に対して、労働者派遣契約書における秘密保持義務の記載を求めるように促してください。
秘密保持義務の修正・追加は秘密保持契約書や覚書で対応することも検討する
この点について、派遣会社・派遣元の中には、労働者派遣契約書を雛型・約款としていて、変更の余地がないとしている場合もあります。
このため、労働者派遣契約書に秘密保持義務を追加したり、特約として秘密保持義務を記載することは、実務上困難であるといえます。
このような場合は、別途の秘密保持契約書や覚書とすることで、労働者派遣契約書の本体を変更することなく、対応できます。
派遣労働者の秘密保持義務
派遣労働者は派遣会社(派遣元)に対しては秘密保持義務を負う
派遣労働者は、労働者派遣契約第24条の4により、業務上取り扱ったことについて知り得た秘密について、秘密保持義務を負います。
派遣会社の場合と同じく、労働者派遣法の秘密保持義務は、あくまで派遣労働者を規制する公法上の義務とされています。これは、派遣労働者と派遣会社との民事上(私法上)の直接的な秘密保持義務を規定しているわけではありません。
派遣労働者は派遣先に対しては秘密保持義務を負わない
しかも派遣労働者の場合は、派遣会社に対しては労働契約・雇用契約に付随する義務として秘密保持義務を負いますが、派遣先に対してはなんらの秘密保持義務を負いません。
このため、派遣労働者が故意または過失によって派遣先に何からの損害を与えたとしても、派遣先に対して直接その損害を賠償するのは、あくまで派遣会社であって派遣労働者ではありません。
開示者=派遣先による派遣労働者への秘密保持義務の問題点
このような事情があるため、秘密情報の開示者=派遣先が派遣労働者を使用する場合、その派遣労働者が情報を漏洩させてしまったとしても、開示者=派遣先は、その派遣労働者に対して、直接責任を追求することはできません。
派遣先と派遣労働者との直接的秘密保持契約は直接雇用とみなされる可能性も
以上のような問題点を解決するために、開示者=派遣先としては、受領者=派遣会社・派遣元に対して、使用している派遣労働者個人から秘密保持誓約書を徴収するように求めることも検討しなければなりません。
ただし、開示者にとっても、また受領者にとっても、本来第三者であるはずの派遣労働者からの秘密保持誓約書の提出について、開示者と受領者との秘密保持契約で義務づけることは、契約条項として無効となる可能性もあります。
また、派遣先である開示者が、直接雇用しているわけではない派遣労働者に対して、直接秘密保持誓約書の提出を求めることも考えられます。
ただ、この場合、派遣先であるはずの開示者と派遣労働者が直接雇用の関係とみなされる可能性があるなど、労働法制上、問題となる可能性も否定しきれません。