秘密保持契約書の達人

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M&A契約書の秘密保持義務:目次

  1. M&A契約とは
  2. M&A契約と契約書
  3. まずは秘密保持契約書から
  4. 売主は常に破談を意識する

M&A契約とは

事業を譲渡に関する契約

M&A契約とは、ある企業の売主が買主に対して、その企業や事業の全部または一部を譲渡・売却し、買主がその対価を支払う契約をいいます。

 

M&Aには様々な手法があるため、ひと言でM&A契約といっても、その内容は契約ごとに大きな違いがあります。一般的な手法としては、株式譲渡による契約か、事業譲渡による契約のいずれかでおこなわれます。

 

株式譲渡形式

ここでいう株式譲渡とは、文字どおり、売主が法人である株式会社そのものを譲渡することをいいます。

 

これは、形式的には売主が保有している株式を買主に譲渡するわけですから、契約形態としては、比較的シンプルな内容といえます。

 

事業譲渡形式

他方、事業譲渡とは、次のとおりです。

最高裁判決昭和40年9月22日

(事業譲渡とは)…一定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産(得意先関係等の経済的価値のある事実関係を含む。)の全部または重要な一部を譲渡し、これによって、譲渡会社がその財産によって営んでいた営業的活動の全部または重要な一部を譲受人に受け継がせ、譲渡会社がその譲渡の限度に応じ法律上当然に同法(旧商法)25条に定める競業避止義務を負う結果を伴うものをいうものと解するのが相当である。

以上のとおり、事業譲渡の形式は、動産・不動産の売買や契約譲渡・債務引受などの多くの手続きが伴いますので、契約形態としては非常に複雑な内容です。

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M&A契約と契約書

法的義務ではないものの契約書が作成される

M&A契約は、特に契約書の作成が法的に義務づけられているものではありません。ただ、通常の場合は、会社法などにもとづく手続き上、作成が求められることがほとんどです。

 

何よりも、M&Aの契約では、買主が対価として支払う金額が非常に高額であるため、一般的には、契約書を作成します。というよりも、契約書を作成しないM&A契約は、非常にリスクが高く、まずおこなわれることはありません。

 

M&A契約書では、株式譲渡の場合は対象となる株式の内容や対価、事業譲渡の場合は対象となる事業や対価を規定します。

 

事業譲渡の契約書は非常に複雑になる傾向がある

この点について、すでに述べたとおり、株式譲渡の場合は非常にシンプルですが、事業譲渡の場合は、譲渡対象となる財産や契約関係についてすべて漏れなく記載しなければなりません。これは、契約実務上、非常に煩雑な手続きとなります。

 

このほか、両者に共通するものとしては、誓約事項、表明保証事項、前提条件、対価の調整、補償などを契約書に記載します。

まずは秘密保持契約書から

M&A契約では、実際の合併や買収をおこなう前に、企業や事業の調査・査定(=デューデリジェンス)がおこなわれます。デューデリジェンスの対象となる情報は様々ありますが、ありていに表現してしまえば、あらゆる情報がデューデリジェンスの対象となります。

 

例えば、会社の組織、取引先との契約関係、会計帳簿、財務状況、訴訟・紛争、人事労務、保有資産(動産・不動産・知的財産権)、許認可などが対象となります。

 

M&A契約では最初から秘密保持契約が必須

このように、買収対象の企業にとっては、非常にセンシティブな情報が買主に開示されることを意味します。また、そもそもM&Aの交渉中であるという情報そのものも、外部に漏洩してはならない、非常に重要な秘密情報のひとつであるといえます。

 

このような実態があるため、M&Aの契約は、すべての契約のなかでも、最も厳しい秘密保持義務が課せられる契約であるといえます。このため、M&Aの契約では、最初の行程で、秘密保持契約を取り交わします。

売主は常に破談を意識する

M&Aの契約では、売主としては、契約交渉の結果、破談となった場合の秘密情報の漏洩に特に注意します。

 

すでに述べたとおり、M&Aの契約では、実に多くの情報が買主に開示されることになります。しかもその内容は、売主にとっては、漏洩や不正使用があった場合には非常に大きな損害を与えかねない、センシティブな情報です。

 

無事に契約が成立した場合は、対象となる会社や事業は買主に移転することになるため、その後の買主は、秘密情報の保有者として、むしろ秘密情報の漏洩がないように対処します。

 

問題は、契約が破談となった場合です。

 

この場合は、買主(の予定であった者)にとって、特に秘密情報を漏洩しないようにするインセンティブが働きません。それどころか、悪質な場合は、開示された秘密情報を不正に使用することすらあります。

 

このような場合に備えて、売主としては、契約交渉中は、常に破談となることを意識し、なるべく秘密情報は段階的に開示していくなどの工夫が必要となります。

 

また、情報を開示する際にも、開示する情報の記録媒体に確定日付を押印し、実際に開示した際の議事録を作成するなどして、開示した秘密情報の記録を残しておくべきす。

 

他方、買主としては、売主に対し、契約成立後の秘密保持義務や競業避止義務などを課し、特に売主が競合他社として買収した事業に参入できないようにします。

 

なお、事業譲渡における競業避止義務は、商法第16条や会社法第21条に規定されています。

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