製造請負契約書の秘密保持義務:目次
製造請負契約とは
請負契約とは、「当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約する」契約です(民法第632条)。
この点から、製造請負契約とは、当事者の一方が特定の製品を完成することを約し、相手方が完成した製造物に対してその報酬を支払うことを約する契約であるといえます。
場合によっては売買契約の可能性も
なお、物品の製造に関する契約のすべてが請負契約であるかというと、必ずしもそうではありません。特に、契約実務においては、売買契約との違いがはっきりしないことがります。
というのも、物品の製造請負契約も物品の売買契約も、外形的には契約の対象となる物品の納入と代金の支払いがある契約だからです。
必ず請負契約であることを契約書に明記する
売買契約と請負契約では契約内容に大きな違いがありますので、製造請負契約を結ぶ際には、口約束ではなく、必ず契約書を作成し、売買契約なのか、請負契約なのかをはっきりと明記するべきです。
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製造請負契約と契約書
口約束でも成立するが下請法が適用される場合は発注者に書面交付義務あり
製造請負契約は、原則として、契約書の作成が義務づけられていません。このため、現行法では、口約束であっても、契約は成立します。
ただし、例外として、下請法が適用される場合は、親事業者に該当する契約当事者は、下請事業者に該当する契約当事者に対して、下請法第3条に規定する条件を充たした書面を交付する義務があります。一般的には、この書面は、契約書や注文書として交付されます。
基本契約+個別契約のセットが多い
一般的な製造請負契約は、継続的な契約の基本となる契約(=「基本契約」)と、個々の受発注ごとに取り交わす個別の契約(=「個別契約」)に分けます。
このため、このような形式の基本契約書を「取引基本契約書」や「製造請負取引基本契約書」といい、個別の契約書を「注文書」「注文請書」や「発注書」「受注書」のように呼ぶこともあります。
製造請負契約(基本契約の場合)では、個別契約の成立(受発注の手続き)、製造、納入、検査、瑕疵担保責任、支払い等の内容を規定します。
また、特に知的財産権の取扱い(使用許諾・改良発明の知的財産の帰属)などについては、非常に揉めやすいため、なるべく契約書で明記します。なお、この際、独占禁止法に違反しないように注意します。
技術情報の漏洩に注意
秘密保持義務・秘密保持契約書が必須
製造請負契約における秘密保持義務としては、いかなる状況においても、情報漏洩の可能性を考慮しなければなりません。特に、発注者として技術情報の営業秘密を開示する場合は、受領者に対しては、厳重な秘密保持義を課す必要があります。
このため、取引基本契約書への秘密保持義務の記載や秘密保持契約書の取り交わしは必須であるとえいます。
発注者・受注者ともに情報漏洩・不正使用に注意する
製造請負契約においては、実に多くの秘密情報が開示されます。
多くの場合は、発注者の側から、受注者の側に、製品の仕様として開示されます。具体的には、設計図、金型、製造方法、原材料などがあります。
これらの情報が特許権として保護されている場合はさほど問題はありませんが、そうでない場合は、受注者に対して秘密保持義務を課すことで、営業秘密として保護する対策を取らなければなりません。
他方で、受注者の側から情報が開示されることもあります。例えば、受注者が設計図面や金型などを作成する場合が該当します。このような場合は、受注者の側からも、発注者に対して、一定の秘密保持義務を課すべきです。
あらゆる場面で情報漏洩・不正使用を想定する
また、製造請負契約では、どのタイミングであっても、技術情報が漏洩する可能性があります。具体的には、最初の契約交渉の段階から、契約が終わった後まで、文字どおり最初から最後まで情報が漏洩する可能性があります。
このため、製造請負契約書だけでなく、契約交渉の段階から積極的に秘密保持契約書を活用する必要があります。また、場合によっては、契約が終わった後でも秘密保持義務が残るように、残存条項を活用します。
独占禁止法違反に注意
なお、特に発注者の側が、受注者にとってあまりにも厳しい契約条件を課すことは、独占禁止法上問題となることもあります。
秘密保持義務に関連するものとしては、発注者が開示した情報にもとづいて、受注者が第三者(特に競合他社)のために製品を製造することを制限する条項が問題となる可能性があります(公正取引委員会『自動車部品の取引に関する実態調査』平成5年6月29日)。
同様に、発注者が受注者に対し第三者に対する競争品の製造・販売を制限することが問題となることもあります。
このような制限以外に発注者の情報の漏洩または流用を防止するための手段がない場合には、その制限は、独占禁止法上問題が少ないといえます(公正取引委員会『知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針』第4 4(4)など)。
また、いわゆる改良発明を目的外使用の禁止として制限することは、独占禁止法上問題となります(同指針第4 5(7))。
秘密保持義務を課すこと自体は問題ない
なお、単に発注者が受注者に対して秘密保持義務を課すこと自体は、原則として問題はありません(同指針第4 4(6))。