秘密保持契約書の達人

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目的外使用の禁止:目次

  1. 秘密保持義務だけでは不十分
  2. 目的外使用の禁止は例外がある
  3. 目的外使用の禁止は「目的」の明記が前提
  4. 場合によっては具体的な行動を列記する

秘密保持義務だけでは不十分

意外に忘れられるので必ず規定する

目的外使用の禁止の条項は、受領者による秘密情報の目的外の使用を禁止する規定です。

 

秘密保持契約において、目的外使用の禁止規定は、秘密保持義務と並んで、最も重要な条項のひとつです。それにもかかわらず、場合によっては重要視されず、規定されないことすらあります。

 

確かに、秘密保持義務は、秘密情報の漏洩や第三者に対する開示を禁止する意味で、非常に重要な条項ではあります。しかしながら、受領者に秘密保持義務を課すだけでは、秘密保持契約の目的を達成することはできません。

 

というのも、受領者が勝手に秘密情報を悪用・不正使用してしまう可能性もあるからです。

 

情報漏洩と同じくらい「不正使用」のリスクを考える

例えば、秘密情報の開示者として、DM発送代行業者に取引先へのDM発送業務を委託する際に、その業者には、秘密情報として取引先のリストを開示することになります。

 

この際、取引先のリストが悪用されてしまって、DM発送業者自身の営業のために使用されてしまうこともあり得ます。最悪の場合、名簿業者に密かに転売される(これは厳密には秘密保持義務違反ですが)こともあり得るでしょう。

 

このような受領者による秘密情報の不適切な使用を防止するために、秘密保持契約書では、秘密情報を契約の目的以外の使用を禁止します。

 

秘密情報の使用が前提でない場合は規定しない

なお、そもそも秘密情報の使用が許諾されていない場合、この条項は必要ありません。例えば、情報を不正取得した相手方に対して、不正使用した情報の使用を禁止する目的の秘密保持誓約書などには、そもそも目的外使用の禁止を規定しません。

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目的外使用の禁止は例外がある

ただし、目的外使用の禁止には、いくつかの例外があります。このため、すべての場合に目的外使用の禁止規定が有効となるなるわけではありません。

 

厳しい目的外使用の禁止は独占禁止法違反となることとも

例えば、製造請負契約においては、発注者が受注者に対し第三者のための競争品の製造を制限することがあります。これは、独占禁止法上問題となる可能性があります(公正取引委員会『知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針』第4 4(4)など)。

 

このため、特に市場に流通している規格品の設計図のように、営業秘密・ノウハウとして保護する必要のない情報については、例外として目的外の使用ができるようにする、または目的の定義を見直すことも検討するべきです。

 

また、同じく製造請負契約においては、いわゆる改良発明を目的外使用の禁止として制限することは、独占禁止法上問題となります(同指針第4 5(7))。

目的外使用の禁止は「目的」の明記が前提

目的外使用の禁止を契約条項として規定したとしても、それだけでは不十分です。というのも、どのような使用をもって「目的外の使用」とするのかが問題となることがあるからです。

 

この点については、「目的」の定義が非常に重要となります。「契約の目的」のページでも触れましたが、「目的」の定義は、目的外使用に該当するかどうかの基準になります。

 

このため、目的の定義が不明確な場合は、秘密情報の使用が目的外使用に該当するかどうかの判断ができなくなります。

場合によっては具体的な行動を列記する

一般的な秘密保持契約書では、目的外使用の禁止について、次のように規定します(出典:経済産業省;『営業秘密管理指針』2003年1月30日(2015年1月28日全面改訂) 参考資料2 各種契約書等の参考例』第8を一部改変)。

第○条(目的外使用の禁止)

甲又は乙は、秘密情報を第○条に規定するもの以外の目的に使用してはならない。

「ネガティブリスト」方式により禁止行為を規定する

このような記載であっても、目的の定義が明確であれば格別問題はありません。ただ、具体的に目的外の使用行為について想定される場合は、念のため、次のようにその行為を明記するべきです。

第○条(目的外使用の禁止)

甲又は乙は、秘密情報を次の各号の目的その他の第○条に規定するもの以外の目的に使用してはならない。

(1)冒認出願のため

(2)改良発明をなすため

(3)(以下省略)

上記の例は、技術情報の開示にかかる秘密保持契約を想定したものです。

 

冒認出願とは、特許を受ける権利を有しない者がおこなう特許出願のことです。冒認出願は、そもそも出願者に特許を受ける権利がないわけですから、わざわざこのように規定しなかったとしても、当然に目的外使用(厳密には権利・権原がない行為)となります。

 

ただ、このように具体的に契約書に記載することにより、受領者の側に念を押し、確認をさせるために規定することもあります。

 

なお、平成24年4月1日施行の改正特許法により、冒認出願については、一定の救済を受けることができるようになりました(特許法第74条第1項)。

 

また、改良発明を禁止することは、契約内容によっては独占禁止法違反となる可能性があります。このため、契約内容によっては、目的外使用と改良発明の整合性について検討する必要があります。

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