秘密保持契約書の達人

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合意管轄:目次

  1. 合意管轄とは
  2. なるべく自身の本拠地に近い裁判所を規定する
  3. 専属的合意と非専属的合意
  4. 必ず専属性の有無を規定する
  5. 知的財産権に関する裁判所は別扱い

合意管轄とは

第一審の裁判所は自由に決めてよい

合意管轄とは、契約当事者が契約書で合意することにより設定する第一審の裁判所の管轄のことです。

民事訴訟法第11条(管轄の合意)

1 当事者は、第一審に限り、合意により管轄裁判所を定めることができる。

2 前項の合意は、一定の法律関係に基づく訴えに関し、かつ、書面でしなければ、その効力を生じない。

3 第一項の合意がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)によってされたときは、その合意は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。

(下線部・強調は管理人による)

 

契約の当事者は、いわゆる法定管轄や専属管轄でない訴訟の管轄裁判所については、自由に契約書で決定することができます。

 

なお、合意管轄は、「一定の法律関係に基づく訴え」に関したものでなければなりません(民事訴訟法第11条第2項)。

 

このため、合意管轄の規定では、「甲および乙の本契約にもとづく訴訟に関しては…」のように、契約関係を特定する必要があります。仮に契約関係を特定せず、「甲および乙に発生する訴訟に関しては…」のような規定の場合は、無効となる可能性があります。

 

契約書の作成は必須

また、合意管轄は、「書面でしなければ」なりません(民事訴訟法第11条第2項)。口約束の合意管轄は効力が発生しません。このため、合意管轄を定めるためには、契約書の作成は必須です。

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なるべく自身の本拠地に近い裁判所を規定する

本来は「被告」の本拠地

合意管轄の取り決めがない場合は、原則として、裁判を提起する場合は、被告=訴える相手方の本拠地の裁判所で裁判をおこないます(民事訴訟法第4条)。これを「普通裁判籍」といいます。

 

つまり、秘密保持契約違反(情報漏洩等)について受領者を訴える場合、開示者としては、受領者=被告の本拠地を管轄する裁判所に訴えることになります。

 

この点について、特に国際取引、また国内取引であっても当事者間の距離が離れている場合、民事訴訟法の原則どおり被告の本拠地の裁判所で裁判をおこなうということは、原告にとっては、距離が離れた場所で裁判をおこなうことになります。

 

これは、費用の関係で、原告にとって非常に不利となる可能性があります。

 

自社の近くの裁判所を指定して費用を抑える

このため、距離が離れた当事者間で契約を結ぶ場合は、なるべく自身の本拠地の所在地に近い裁判所で裁判ができるようにし、訴訟で発生する費用を抑える必要があります。

 

ただ、自身の本拠地の所在地に近い裁判所での裁判を希望するのは、相手方にとっても同じことです。このため、距離が離れた契約当事者間では、合意管轄を巡って利害が対立し、しばしば交渉が難航することがあります。

 

なお、合意管轄は絶対的に有効なものではなく、場合によっては無効となったり、裁判所の判断で裁判が移送されたりすることもあります。

専属的合意と非専属的合意

管轄裁判所の合意には、その専属性の違いにより、大きく分けて2種類あります。ひとつは、「専属的合意」、もうひとつは「非専属的合意(選択的合意・付加合意)」です。

 

専属的合意とは、特定の裁判所にのみ管轄を認める合意をいいます。これは、裁判管轄を契約書に記載するものだけに特定すること=裁判所の選択肢を特定することを目的とした合意です。

 

非専属的合意(選択的合意・付加合意とは、民事訴訟法に定める管轄以外の裁判所に管轄を認める合意をいいます。これは、民事訴訟法に規定する裁判所に加えて、裁判管轄を契約書に記載する裁判所にも認めること=裁判所の選択肢を増やすことを目的とした合意です。

 

普通は「専属的合意」

一般的な契約実務においては、合意管轄は、専属的合意による裁判管轄を規定することを目的とします。つまり、一般的な合意管轄は、ある特定の裁判所(通常は1箇所のみ)だけに限定することを目的として規定します。

 

ちなみに、管理人は、明らかなミスや選択的合意・付加合意を説明するための例文を除いて、実際には専属的合意の合意管轄が規定された契約書しか見たことがありません。

必ず専属性の有無を規定する

上記のように、合意管轄には、専属性の有無により、大きな違いがあります。それにもかかわらず、一般的な契約書には、必ずしも専属性の有無が明らかでない場合があります。

 

この点について、例えば次のような記載は、専属的合意管轄を定めたものではない、とする判例もあります(東京高裁判決昭和58年1月19日)。

第○条(合意管轄)

甲の本店所在地を管轄する裁判所を合意管轄裁判所とする。

また、次の記載も同様です(大阪高裁判決平成2年2月21日)。

第○条(合意管轄)

本件に関する訴訟は債権者の甲の本店所在地の管轄裁判所の審判を受くべき旨合意する。

このように、管轄の専属性が明らかでない場合は、非専属的合意管轄であると解釈される可能性があります。つまり、契約書に記載された裁判所以外でも、通常の民事訴訟法のルールにもとづく裁判所が管轄となる可能性があります。

 

このため、裁判管轄について専属的合意=1箇所の裁判所を指定をする場合は、必ず「専属的合意管轄裁判所」という記載にします。

知的財産権に関する裁判所は別扱い

なお、知的財産権に関する裁判については、民事訴訟法で別の規定があります。このため、一般的な契約上の合意管轄とは別の取扱いとなります。

 

詳しくは、「知的財産権の専属管轄」をご覧ください。

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