秘密情報の返還・廃棄・消去:目次
契約終了後の情報漏洩・不正使用に備える
秘密保持契約の契約期間中、秘密情報の受領者には、各種の契約条項によって抑止が効いていますので、情報漏洩・不正使用はあまり発生しません(もちろん、まったくないわけではありません)。
他方、契約終了後は、残存条項の内容によってはある程度は抑止が効くとはいえ、あまり契約による抑止が期待できません。
このため、開示者としては、契約終了後に情報漏洩・不正使用がないように、なんらかの対策を取る必要があります。
秘密情報の返還・廃棄・消去を求める
この点について、そもそも漏洩・不正使用の原因となる情報そのものを除去してしまう、という対策が最も理想的な対策といえます。このような情報の除去を目的とした条項が、秘密情報の返還・廃棄・消去の条項です。
開示者は、この条項を秘密保持契約書に記載しておくことで、契約終了時(契約期間中とすることも可能です)に秘密情報を返還または再生不能な形で廃棄・消去を求めることができます。
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必ず返還・廃棄・消去の証拠を得る
なお、実際の秘密情報の廃棄・消去の際には、開示者は、受領者から、秘密情報を返還・廃棄・消去した旨の証拠を得るべきです。
開示者は、受領者の秘密情報の返還・廃棄・消去について、外形上の確認を完全にできるわけではありません。せいぜい、オリジナル(原本)の記録媒体の返還を確認できるだけであり、複製物(コピーしたものやプリントアウトした書面など)の廃棄やデータの消去は確認できません。
このため、秘密保持契約の実務上は、受領者が「確かに返還・廃棄・消去した」ことを保証してもらうことで、受領者を秘密情報を保有していないことを担保します。
重要な秘密情報の返還・廃棄・消去の場合は確認書を徴収する
具体的には、上記の保証内容が記載された確認書を徴収しておいてください。また、確認書には、なるべく代表者(代表者が無理な場合は少なくとも契約締結権のある課長級以上の者)の署名押印または記名押印がなければ、有効とならない可能性があります。
ただし、この確認書の徴収は、受領者から反発される可能性があります。受領者の反発によって確認書の徴収ができないようであれば、せめて電子メールなどで確認のうえ、その返信を受けるの形で、受領者が秘密情報の返還・廃棄・消去したことの証拠を押さえてください。
受領者はなるべく義務を緩和する
受領者としては、秘密情報の返還・廃棄・消去の条項がある秘密保持契約では、契約内容のとおり、開示者の要求に従って、秘密情報を返還・廃棄・消去しなければなりません。
ところが、開示者から開示されたすべての秘密情報(コピーなどを含む)についての管理が完璧にできていない限り、これらの返還・廃棄・消去は、事実上不可能といえます。
このため、受領者としては、なるべく秘密情報の返還・廃棄・消去の条項は、削除するか、または内容を緩和するように交渉してください。また、秘密保持契約書からこの条項の削除ができない場合は、確認書の徴収の条項だけでも削除してもらってください。
秘密情報の返還・廃棄・消去の「保証」は難しい
というのも、たとえ会社としては秘密情報の返還・廃棄・消去ができていたとしても、すべての従業員(退職者を含む)について、同じように秘密情報の返還・廃棄・消去ができているとは保証できないからです。
特に、従業員(退職者)が秘密情報を保有していた場合は、確認書の内容とは異なることになりますので、契約違反となりかねません。
不正競争防止法違反に注意
また、受領者として注意しなけばならない点は、不正競争防止法違反のリスクです。
2010年7月1日に施行された改正不正競争防止法第21条第1項第3号ハでは、営業秘密を開示された者が営業秘密の消去義務に違反した場合は、罰則(10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金またはこれらの併科)が適用されるようになりました。
(強調・下線部は管理人による)不正競争防止法第21条(罰則)
1 次の各号のいずれかに該当する者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する
(途中省略)
(3)営業秘密を保有者から示された者であって、不正の利益を得る目的で、又はその保有者に損害を加える目的で、その営業秘密の管理に係る任務に背き、次のいずれかに掲げる方法でその営業秘密を領得した者
(途中省略)
ハ 営業秘密記録媒体等の記載又は記録であって、消去すべきものを消去せず、かつ、当該記載又は記録を消去したように仮装すること。
秘密情報の消去については安易な返答・回答は避ける
この規定の重要なポイントのひとつは、文末の「仮装するすること。」という表現です。受領者が開示者に交付する確認書や送信する電子メールは、「消去したように仮装」した重要な証拠となります。
逆に、仮に営業秘密の消去がなされていなかったとしても、消去したように仮装しなければ(=確認書の交付や電子メールの送信などをしなければ)、少なくとも不正競争防止法違反で刑事罰を受けることはありません。