秘密保持契約書の達人

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公知情報:目次

  1. 公知情報とは
  2. 何をもって「公知情報」とするのか
  3. リバースエンジニアリングで得た情報は「公知情報」か?
  4. 公知情報と個人情報

公知情報とは

公知情報とは、秘密保持契約が結ばれた時点で、すでに広く公に知られている情報です。

 

公知情報は保護する必要が乏しい

このような情報は、すでに公開されているものですから、漏洩したからといって、法的には保護に値しません。この点は、不正競争防止法上の営業秘密の要件として「非公知性」が求められている点と同様に考えるべきです。

 

また、すでに公に知られているような情報であるにもかわらず、これを秘密に保持するような秘密保持契約の義務は、契約上の義務としては、不当に厳しいものといえます。

 

このような事情から、一般的な秘密保持契約書では、公知情報は秘密情報の例外として取り扱われることが多いようです。

 

公表されている知的財産権や人物の顔に注意

なお、公知情報であっても、他の法律で保護される情報については、使用が制限されることがあります。特に、特許権や著作権として保護される情報については、公知のものであっても、勝手に使用すると、特許法違反や著作権法違反となる可能性もあります。

 

また、人物の顔写真などについては、個人情報の取扱いの問題や、肖像権、(著名人のものに限りますが)パブリシティ権などの人格権が発生する可能性がありますし、使い方によっては名誉毀損罪や侮辱罪に該当する可能性もあります。

 

このため、取扱いは十分に注意するべきです。

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何をもって「公知情報」とするのか

公知情報=「公然と知られていない情報」

情報が公知であるか非公知であるかは、法律上は必ずしも明らかにされていません。

 

この点について、不正競争防止法第2条第6項では、営業秘密の要件である「非公知性」のとして、「公然と知られていない」と規定されています。

 

この「公然と知られていない」とは、次のように説明されています。

保有者の管理下以外では一般的に入手することができない状態にあること
(経済産業省;『逐条解説 不正競争防止法(平成23・24年改正版)』2012年12月5日)

 

また、次のようにも説明されています。

「非公知性」が認められるためには、一般的には知られておらず、又は容易に知ることができないことが必要である。
(経済産業省;『営業秘密管理指針』2003年1月30日(2015年1月28日全面改訂))

 

従いまして、秘密保持契約においても、この解釈を準用して解釈するべきでると思われます。

 

なお、秘密保持義務との関係では、秘密保持義務を負う「特定の者」(人数の多寡を問わない)に対して開示されている情報は非公知であり、それ以外の情報は公知であると考えるべきです。

リバースエンジニアリングで得た情報は「公知情報」か?

公知情報との関係で問題となるのが、リバースエンジニアリングの問題です。これは、例えば、既存の物品(製品や部品など)の改良を目的とした共同研究開発契約の場合に、その製品や部品を開示する際に問題となります。

 

このような既存の製品や部品に関する開発契約の場合、開示される製品や部品はすでに市場に出回っていることが多く、その意味では、「公知情報」であるといえる可能性があります。

 

それでは、このような情報は、特許を取得したり著作権が成立したりしていない限り、保護されないのかというと、必ずしもそうではありません。

 

たとえリバースエンジニアリングで取得できるとしても「公知情報」としない

この点について、リバースエンジニアリングに関して不正競争防止法上の営業秘密の「非公知性」について争われた判例では、次のとおり判示されています(引用:最高裁;「営業秘密侵害行為差止等請求事件(大阪地裁判決平成15年2月27日)」)。

大阪地裁判決平成15年2月27日

…情報を得ようとすれば、専門家により、多額の費用をかけ、長期間にわたって分析することが必要であるものと推認される。 したがって、(途中省略)秘密保持契約なしに販売されたことによって公知になったとはいえない。

このため、一般に販売されている製品をリバースエンジニアリングすることにより取得できる情報だからいって、その情報がかならずしも(少なくとも不正競争防止法上は)公知とみなされるとは限りません。

 

この考え方を秘密保持契約書にも反映させて、リバースエンジニアリングによって取得される情報については、公知情報の例外とするように規定するべきです。

公知情報と個人情報

また、個人情報についても、公知情報との関係で問題となることがあります。

 

個人情報=公知情報?

個人情報は、電話帳に記載されている場合、表札がある場合など、多くのものが公知情報であるといえます。このため、一般的な秘密保持契約では、理屈のうえでは秘密情報の例外となる可能性があります。

 

このように解釈した場合、理屈のうえでは、たとえ受領者による個人情報の漏洩があったとしても、その個人情報は秘密情報に該当しません。これでは、開示者は、受領者の秘密保持契約違反を主張することができなくなります。

 

このため、個人情報については、秘密保持契約の実務では、公知情報であっても、秘密情報の例外とはしません。詳しくは、「個人情報の取扱いについて」にて解説します。

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