秘密保持契約書の達人

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独自開発情報:目次

  1. 独自開発情報とは
  2. あくまで「他の秘密情報を参照しない」ことが前提
  3. 「秘密情報を参照しなかった」という立証
  4. ペーパートレイルによる立証
  5. クリーンルームによる立証

独自開発情報とは

独自開発情報とは、一般的には、相手方との共同開発によらずに、一方の当事者が単独で開発した情報をいいます。

 

例えば、ある情報Xが開示者から開示された後で、受領者がその情報Xと同一の情報を独自に開発した場合、この受領者が独自に開発した情報Xのことをいいます。

 

このような情報は、開発した当事者の財産ですから、原則として、開発した当事者が自由に使用・開示ができるものです。

 

このため、一般的な秘密保持契約書では、独自開発情報は、秘密情報の例外として規定します。

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あくまで「他の秘密情報を参照しない」ことが前提

ただ、開示者にとっては、すべての独自開発情報を例外として認めるべきなのかというと、必ずしもそうではありません。

 

当然ながら、受領者が「独自に」開発した情報であることが前提であり、受領者が他の秘密情報を参照して開発した場合は、少なくとも開示者としては、秘密情報として取扱うべきです。

 

改良発明は契約内容によって制限できる場合とできない場合がある

なお、受領者が秘密情報を参照して開発した場合は、秘密保持義務の問題とは別に、知的財産権の帰属の問題もあります。いわゆる「改良発明」の問題です。

 

このような秘密情報を参照して開発した場合=改良発明をおこなった場合は、原則としては「目的外使用」として秘密保持契約違反となります。

 

しかし、ライセンス契約、製造請負契約など、知的財産の利用に関する契約の場合は、独占禁止法により、逆に改良発明を禁止することができません(公正取引委員会『知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針』第4 5 (7))。

 

また、知的財産権の帰属についても、独占禁止法により、大きく制約を受けます(同第4 5 (8)、(9))。

「秘密情報を参照しなかった」という立証

そこで問題となるのが、独自開発情報が秘密情報の例外となるには、受領者が「秘密情報を参照することなく開発した」ことを立証できるかどうか、という点です。

 

受領者にとって、この「秘密情報を参照することなく開発した」との立証は、実務上、非常に難しいといえます。

 

情報の種類や社内の情報管理体制にもよりますが、一般的に、ある情報を共有する別々の契約当事者が、相互にその情報を参照することなく、結果的に同様の情報の開発・生産をおこなうということ自体、非常に確率が低いことといえます。

 

しかも、論理的には、「何かを参照して」開発・生産したことを立証することは簡単ですが、「何かを参照することなく」開発・生産した、ということを立証することは極めて困難です。

ペーパートレイルによる立証

このような事情があるため、受領者が独自開発情報による秘密情報の例外規定を活用するためには、あらかじめ対策を施しておく必要があります。具体的には、「ペーパートレイル」と「クリールーム」があります。

 

「実験ノート」を法的証拠として活用する

ペーパートレイルとは、情報の開発・生産の過程(トレイ=軌跡)を紙(=ペーパー)に記録しておく方法です。いわゆる「実験ノート」が該当します。

 

この実験ノートの記載方式は、「ラボノート方式」と「ログブック方式」があります。このうち、ログブック方式の方が、この例外規定の活用のためには効果があると思われます。

 

というのも、ログブック方式は、時系列に沿って事実を記載していく記録方式であるため、情報開示の前後の状況まで記録に残ります。

 

このため、結果としては、「秘密情報を参照したかどうか」という点について、前後の時間を基準に判断できるからです。

クリーンルームによる立証

また、クリーンルームとは、研究開発中の情報と秘密情報とのコンタミネーション(汚染・混在)を防止することを目的として、情報の開発・生産する場所を物理的に隔離する方法です。

 

このような情報の隔離のことを、「チャイニーズウォール」ともいいます。

 

これらの手法を取ることで、受領者は、一定程度、「独自開発」であることを立証できます。また、この方法は、他者の営業秘密を侵害することなく開発・生産されたということの証拠にもなります。

 

ただし、当然ながら何の対策もしなかった場合とくらべて、コストや手間がかかりますので、情報の種類によっては、費用倒れとなるリスクもあります。

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