秘密保持契約書の達人

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個人情報の取扱いについて:目次

  1. 個人情報は例外なく秘密情報
  2. 公知情報である個人情報の漏洩でも損害は発生する
  3. 個人情報保護法の「個人情報」でいいのか?
  4. 死亡した個人の個人情報の取扱いを検討する

個人情報は例外なく秘密情報

個人情報の中には、このカテゴリーで取り扱った秘密情報の例外に該当するものがあります。しかし、秘密保持契約書では、個人情報については、例外に該当する場合であっても、例外とはみなされないように規定します。

 

一般的に、秘密情報の例外に該当する情報は、秘密保持契約の当事者にとっては、わざわざ秘密で保護するに値しない情報です。

 

個人情報は公知情報でも保護対象

ただ、個人情報は、たとえ例外に該当する場合であっても、その個人情報によって識別される本人とっては、保護されるべき情報です。

 

例えば、多くの個人情報は、電話帳、表札などで確認できる情報=公知情報といえます。このため、一般的な秘密保持契約書では、秘密情報の例外とされ、秘密保持義務の対象外となります。

 

しかしながら、公知情報だからといって個人情報が公開されてしまったり漏洩してしまったりすると、開示者には直接的な損害が発生しないかもしれませんが、個人情報によって識別される本人に損害が及ぶ可能性があります。

 

また、その本人からの損害賠償請求により、開示者に間接的な損害が発生する可能性もあります。

 

このような事情があるため、秘密保持契約書では、個人情報については、例外なくすべて秘密情報とみなされるように記載するべきです。

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公知情報である個人情報の漏洩でも損害は発生する

住民基本台帳のデータですら損害賠償の対象

なお、公知情報である個人情報であっても、その漏洩によって、損害(精神的苦痛に対する損害)が発生する可能性があります。これは、実際に過去に発生した事件の判例で判示されました。

 

その判例とは、「宇治市住民基本台帳データ大量漏洩事件控訴審判決」(大阪高裁判決平成13年12月25日)です。この判例は、個人情報の漏洩事件で最も有名な判例のひとつであるといえます。

 

この裁判では、宇治市側が、漏洩した情報が公開された情報(当時は何人も閲覧することができるもので、公開されている住民基本台帳のデータ)であるため、個人情報に寄って識別される本人のプライバシー権を侵害するものではない、と主張しました。

 

しかし、この主張は、裁判では退けられました。結果として、訴えた原告1人当たり慰謝料1万円と弁護士費用5千円が認定されました。

 

開示者としては個人情報の漏洩を想定する

以上のように、個人情報が漏洩してしまった場合、たとえ公知のものであったとしても、その個人から損害賠償請求を受ける可能性があります。つまり、その個人情報が公知情報であるからといって、損害賠償のリスクを回避することはできません。

 

にもかかわらず、個人情報であっても秘密情報の例外とした場合、開示者としては、受領者から個人情報から個人情報が漏洩したとしても、責任の追求がむずかしくなります。

 

なぜなら、受領者から、「漏洩した個人情報は秘密情報の例外に該当するから秘密保持義務の対象外である」と主張される可能性があるからです。

 

このような主張をされないように、開示者としては、個人情報は例外なく秘密情報として扱われるように、秘密情報を定義づけます。

個人情報保護法の「個人情報」でいいのか?

秘密保持契約において、個人情報の定義は、一般的には明確に規定されていないか、または個人情報保護法第2条第1項の規定を引用することが多いようです。

個人情報保護法第2条(定義)

1  この法律において「個人情報」とは、生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)をいう。

(以下省略)

しかし、これについては、安易に引用することなく、その内容が秘密保持契約の内容ととしてふさわしいかどうかをしっかりと検討する必要があります。

 

というのも、個人情報保護法における個人情報の定義は、「生存する個人に関する情報であって…」とあるように、あくまで「生きている人間」を想定しているものであり、死亡した人間を想定しているものではありません。

 

これは、個人情報保護法が生存する個人の情報を保護することを目的としている法律だからです。

死亡した個人の個人情報の取扱いを検討する

他方、秘密保持契約における個人情報の定義としては、必ずしも「生存する個人に関する情報」とする必要はありません。契約の目的によっては、「死亡する個人」の情報をも個人情報に含め、秘密保持義務を課すことが必要となることがありえます。

 

例えば、死亡した個人の情報が極めて重要な産業(葬儀、墓石販売、相続関係など)に情報が漏洩した場合、その遺族に損害が発生する可能性があります。

 

このような可能性があるような秘密保持契約書においては、個人情報の定義としては、死亡した個人の情報も含める必要があります。

 

そもそも、国と事業者との関係を規定する行政法における個人情報の定義は、民間企業同士の関係を規定する秘密保持契約における個人情報の定義は、必ずしも一致するわけではありません。

 

このため、秘密保持契約の目的に応じて、個人情報の定義を検討し、規定してください。

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