秘密保持契約書の達人

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クレーム類似形式・詳細な記載で秘密情報を特定する:目次

  1. 詳細に秘密情報を記述をする方法
  2. 特に技術情報を保護する場合に使用
  3. 破談のリスクに注意
  4. あくまで契約途中の秘密情報の特定に活用する

詳細に秘密情報を記述をする方法

クレーム類似形式・詳細な記載で秘密情報を特定する方法は、特許法上の、いわゆる「特許請求の範囲」(=クレーム)のような詳細な記載により秘密情報を特定する方法です。

 

具体的には、次のような記載となります(出典:経済産業省;『営業秘密管理指針』2003年1月30日(2015年1月28日全面改訂) 参考資料2 各種契約書等の参考例』第8を一部改変)。

第○条(秘密情報)

本契約において、秘密情報とは、構成脂肪酸において炭素数○○以下の飽和脂肪酸含量が○○〜○○重量%であり、炭素数○○以上の飽和脂肪酸含有量が○○〜○○重量%である油脂配合物を、○○交換してなることを特徴とするクリーミング性改良油脂を、油相 中に○○〜○○重量%含有することを特徴とするバタークリームに関する情報をいう。

これらの記載例は、いずれも従業員向けの秘密保持契約書の場合の例ですが、企業間の秘密保持契約書でも使用できる表現です。

 

この方法による秘密情報の定義は、記載が正確であれば、最も具体的に情報が特定される、というメリットがあります。

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特に技術情報を保護する場合に使用

この方法は、一般的な企業間の秘密保持契約としては、最も具体的に秘密情報が特定される優れた方法のひとつですが、2点の注意点があります。

 

技術情報限定の方法

第1に、主にある程度研究開発が進んだ技術情報を秘密情報とする場合にしか使用できない、という点です。

 

研究開発が進んでいない場合は、詳細な記述ができず、抽象的な記述しかできません。また、技術情報以外の情報は、不可能というわけではありませんが、契約文章とすることが困難です。

 

ただし、具体的に特定されている情報であれば、書面化することで、似たような対応も可能です。例えば、一部の図面、デザイン、マニュアル、顧客リスト等が該当します。

 

これらの情報であれば、別紙扱いとし、契約書に添付することによって解決する事自体は可能です。ただ、相手方の手元に契約書としての秘密情報が残ってしまうリスクもあります。

 

表現には非常に高度な専門技術が必要

第2に、実際に契約文章を起案するには、他の秘密情報の定義の方法と比べて、相応の実務能力が必要となる、という点です。

 

つまり、特許請求の範囲を文章で表現できる程度の非常に高度な実務能力が必要となります。ただし、この点は、弁理士に依頼することで、解決することも可能です。

破談のリスクに注意

すでに述べたとおり、クレーム類似形式・詳細な記載で秘密情報を特定する方法は、秘密情報が明確に特定される、という特徴があります。ただ、だからこそ、非常に大きな問題を抱えている方法です。その問題が、破談の際のリスクです。

 

秘密保持契約の交渉が破談=秘密保持義務がない状態

秘密保持契約を結ぶ際にも、通常の契約と同様に、契約交渉をおこなうことがあります。当然ながら、契約が成立することもあれば、破談となる可能性もあります。

 

この際、無事に契約が成立した場合は、特に問題ありませんが、破談となった場合は、開示者にとって、非常に大きな問題となります。

 

秘密保持契約の契約交渉時には、当然ながら秘密保持契約が成立していませんので、開示者・受領者双方に秘密保持義務は課されません。

 

また、交渉が破談となった場合にも、改めてその破談について秘密保持契約を締結しない限り、秘密保持義務は課されません。

 

秘密保持義務がないまま秘密情報が手元に残る

ということは、破談した状態は、秘密情報が詳細に記載された秘密保持契約書が相手方に残ったままであるにもかかわらず、秘密保持義務は課されてない、という状態であるといえます。

 

このため、もし秘密保持契約が破談となった場合に、秘密情報が記載された秘密保持契約書が受領者の手元に残ってしまったときは、仮に受領者による情報の漏洩・開示があったとしても、開示者としては、秘密保持契約が成立していない以上、少なくとも契約上の秘密保持義務違反を主張することはできません。

あくまで契約途中の秘密情報の特定に活用する

段階的に情報を開示する際に活用する

このような破談のリスクがあるため、クレーム類似形式・詳細な記載で秘密情報を特定する方法は、少なくとも契約交渉の初期の秘密情報の定義としては採用しません。

 

一般的に、契約交渉の際は、契約書に直接秘密情報を記載する必要がない方法=この方法以外のもので秘密情報を定義づけます。

 

その後で、書面等で段階的に秘密情報を開示したり、秘密情報を開示した後で議事録等の記載方法として記載したりする際に、この方法を利用します。

 

秘密情報が特定された時点で活用する

また、この方法による秘密情報の特定は、契約を結んだ当初は秘密情報を特定できない契約(例:共同研究開発契約)などで、契約途中に秘密情報が確定した際に、議事録等の作成の際に活用することもあります。

 

このように、クレーム類似形式・詳細な記載で秘密情報を特定する方法は、あくあまで、主に契約途中=一定の秘密保持義務が課されている状態で、秘密情報を特定するために活用する方法である、といえます。

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